無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 グラスが触れ合う控えめな音と、ほのかに漂うバターの香り。どこか非日常で、ふたりだけが特別な場所に迷い込んだような空気があった。

 「……すごい」

 思わず足を止めると、幹人が隣で少し誇らしげに笑った。

 「予約、取るの大変でした」
 「仕事忙しかったのに……」
 「それでも、今日だけはべつです」

 席に案内され、窓の外に広がる光の海を眺めながら腰を下ろす。
 こんなふうにして家族以外の大切な人に祝ってもらう誕生日は初めてで、なんともいえずくすぐったい。

 「改めて」

 幹人がグラスを手に取り、こちらを見る。

 「誕生日おめでとうございます、天音さん」

 甘い眼差しに胸が熱くなる。

 「ありがとう、幹人くん」

 グラスをテーブルに戻したあと、幹人がふと思い出したように口を開く。

 「そういえば、天音さん、総務課の主任になるそうですね」

 思わず瞬きをする。
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