無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 「どこで聞いたの?」
 「噂ですけど。もう社内じゃ結構話題ですよ」
 「まだ内示だから。正式じゃないし、どうなるかもわからない」

 そう言いながらも、否定しきれない事実に少しだけ胸がくすぐったい。
 幹人は軽くグラスを持ち上げる。

 「それでも今日はダブルでお祝いですね。誕生日と昇進」
 「気が早いって」
 「でも、うれしいです。天音さんがちゃんと評価されてるの」

 その言葉は素直にうれしい。
 仕事の話をこんなふうに喜んでくれる人がいることが、なによりありがたかった。

 「お祝いといえば……」

 話題を少し逸らすように、天音は続ける。

 「姉がね、結婚するらしくて」
 「え、そうなんですか」

 幹人の目が少し丸くなる。

 「おめでとうございます」
 「ありがとう。まだ詳しくは決まってないみたいだけど」

 咲楽の顔を思い浮かべながら微笑む。それと同時に、頭の片隅でべつの考えが小さく芽を出した。

 (幹人くんは、まだ結婚なんて考えられないよね)
< 218 / 251 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop