無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 「正直、心配にはなる。仕事も順調で、主任までなって。これからってときに、まだ右も左もわかんない男に振り回されるのはさ」
 「私は振り回されてないよ」
 「本人はそう言うよな」

 肩をすくめる仕草は軽いのに、言葉だけが妙に重い。

 「年下ってさ、かわいいで済むうちはいい。でも、いずれ差が出る。責任とか覚悟とか。天音は現実的だからさ。昔から」

 ――昔から。その言葉が、勝手に過去へ引き戻そうとする。

 「だから俺は、今のその選択が本当に天音のためなのか気になっただけ」
 「坂口くん……」

 名前を呼ぶと、彼は少しだけ真面目な顔になった。

 「悪い。説教くさかったか」

 そう言いながらも、引く気はないらしい。坂口は一歩、距離を詰めた。

 「でもさ、今からでも考えなおす余地はあるんじゃないか」

 忠告の形をした介入に言い返そうとした、そのとき。

 「天音さん」

 背後から、聞き慣れた声がした。
< 237 / 251 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop