無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 振り向くと幹人が立っている。少しだけ息を整えた様子だ。どうやら急いで来たらしい。

 「お疲れさまです」

 そう言って、自然な動きで天音の隣に並ぶ。坂口との距離を、はっきり断ち切る位置だった。

 「……誰?」

 坂口が眉をひそめる。
 幹人は一瞬だけ坂口を見てから、迷いなく言った。

 「彼氏です」

 静かな声なのに、妙に強い。
 坂口の視線が鋭くなる。幹人を上から下まで品定めするように見た。

 「ふーん。キミが例の新入社員か」
 「〝例の〟がなんなのかわかりませんが、はい」

 幹人は視線を逸らさず、坂口をじっと見据える。そして数秒間、睨み合うようにしてから天音を見た。眼差しを一変させ、甘さを滲ませる。

 「天音さん、主任昇進おめでとうございます」

 まるで坂口の存在などないかのよう。天音しか見えていないみたいだ。

 「ありがとう」

 思わず笑みが零れる。
 坂口は、面白くなさそうに口元を歪めた。
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