無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 坂口は一瞬、言葉を探すように口を開き――閉じた。冗談めかして流すことも、皮肉を返すこともできないみたいだ。
 彼の目の前に立つ幹人は、若いが軽くない。自分に逃げ道を用意せず、最初から正面に立っている。

 「……なるほどな」

 坂口は小さく息を吐いた。

 「天音、面倒な男を捕まえたじゃん」
 「褒め言葉として受け取っておきます」

 幹人は一歩も退かない。
 坂口は肩をすくめ、観念したように笑った。

 「負けたよ。今の顔見りゃわかる」

 そう言って、天音にだけ視線を向ける。

 「昔の天音じゃない」

 一瞬の間のあと、くるりと踵を返した。

 「昇進、おめでと。……幸せになれよ」

 それだけ言い残して、人の流れの中へ消えていく。
 残された天音は、しばらくその背中を見つめてから、隣を見上げた。

 「幹人くん、ありがと」
 「いえ、天音さんを奪われる気はなかったので」

 にこやかな笑みで返され、鼓動が乱れる。
 その鼓動が落ち着く前に、幹人が小さく息を吸った。
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