無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 余計なことが起きなくて理想的と思っていた天音の静かな時間は、もうどこにもなかった。
 

 そのあと、フロアは元の空気を取り戻した。
 電話の音、キーボードを叩く音、紙をめくる音が重なり、先ほどのざわめきが嘘のように溶けていく。

 「じゃあ、加地くん。まずはこっちに来て」

 天音は何事もなかったかのように、できるだけ平静を装って彼を呼んだ。声の調子はいつも通り――と思いたい。
 実際には、嵐のような男が自分のテリトリーに入ってきたため動揺しまくりだ。

 「よろしくお願いします、寺崎さん」

 幹人は素直に従い、天音の席へやって来た。ラーメン屋で見たときの落ち着きのなさは影を潜め、周囲の様子を観察するように視線を巡らせている。
 誰も使っていないキャスター付きの椅子を近くから引っ張り、彼にそこへ座ってもらった。

 ふたり並んで天音のパソコンに向かい、総務部の共有フォルダにあるファイルを開く。

 「インターンの方には主に書類管理と備品関係、それから社内手続きの補助をお願いしています」
 「はい」

 返事は短く、視線は天音の指し示すモニターにきちんと向いている。

 (意外……ちゃんと聞いてる)
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