無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 「乾杯!」

 グラスが軽く触れ合い、場の空気が一気にほぐれる。すぐに和やかなムードで会話がはじまった。

 「加地くん、改めてだけど一級建築士って本当にすごいわよね」
 「大学を卒業してすぐに合格する人、そうそういないよ」
 「たまたま勉強する時間がとれただけで。実務はまだまだですので、いろいろ教えてください」

 幹人は苦笑しながらグラスを傾ける。

 「謙虚だなぁ」
 「でも、その姿勢大事」

 先輩たちが口々に言い、場は和やかだ。
 天音は相槌を打ちながらも、幹人の距離感に内心そわそわしていた。肘が触れそうで触れない、微妙な近さだ。もちろん、彼がわざとそうしているわけでないのは理解している。椅子の数の割にテーブルが小さいせいだ。

 「寺崎さん、今日はありがとうね。初日からいろいろ面倒見てもらっちゃって」

 突然、杉村がこちらを見る。

 「いえ、業務なので」

 反射的にそう答えると、「でもすごく助かりました」と幹人がすぐ隣で言った。声は控えめだが、はっきりしている。

 「説明もわかりやすかったですし」
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