無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 うれしそうに生ビールのジョッキを傾け、ゴクゴクと喉を鳴らす。
 誰かに勧められて注文を覆したのは初めてだ。そもそも強制的だったけれど。
 とはいえ、彼の意見が正しかったから複雑である。

 「ところで彼女は? いるのか?」
 「こらこら、そういうときは〝恋人は?〟って聞かないとダメよ」

 杉村が、隣に座っていた部下をすかさず肘で小突く。

 「なんでですか?」
 「彼女じゃなくて彼氏がいるかもしれないでしょう? 決めつけはいけないわ」

 その場にいた誰もが「なるほど~」と唸る。ジェンダーレスが叫ばれている世の中への配慮だろう。

 「勉強になります」

 肘で小突かれた部下が、素直に頷く。

 「だけど、そういう質問ってセクハラになるんじゃないですか?」
 「たしかに」

 べつの同僚の言葉に何人かが同意する。
 ほんの雑談のつもりでも、すぐなにかのハラスメントに分類されかねない世の中だ。
 気まずいような、笑えるような沈黙が落ちる。

 「まあ、ちなみに言うと、恋人はいませんけどね」 

 にこやかに笑いながら、あっさりと答える。
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