無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 無難であることは、どちらかと言えば逃げだと思っていた。少なくとも自分では。

 「そんな大層なものじゃないわ」
 「でも、基準になるってそういう人じゃないですか」

 幹人は前を見たまま言った。軽い調子なのに言葉は真っすぐだ。
 街灯の下を通り過ぎるたびに影が長く伸びて、また重なる。

 「デフォルトって悪い意味じゃないと思います」
 「……そう、かな」
 「はい。戻れる場所、みたいで」

 ――戻れる場所。
 なんだか素敵な響きだ。でも自分にはちょっともったいない言葉なようで、むず痒い。

 「加地くんは、ずいぶん変わった捉え方をするのね」
 「よく言われます」

 そう言って楽しそうに笑う。

 「でも、寺崎さんもなかなかおもしろい人ですよ」

 目を瞬かせ、隣を歩く彼を見上げた。

 「そんなこと言われたの初めて。退屈って言われるから」
 「そうなんですか?」
 「うん。『退屈すぎて、キミといてもドキドキしない』って振られたこともあるから」
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