無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 少しだけ言葉を区切って、横目で天音を見る。

 「寺崎さんに言われるのは、なんか新鮮です」
 「なにそれ」
 「なんでしょうね。評価、ってことで受け取っておきます」

 軽口のようでいて、きっぱり言い切る。
 その調子に、天音は返す言葉を失った。
 街灯の下で、幹人が前を向いたまま続ける。

 「少なくとも俺は、退屈だなんて思わないです」

 それ以上はなにも言わず、天音に歩調を合わせて歩く。夜の空気の中で、そのひと言だけが妙に残るのはなぜだろう。

 「あっ、ちょっと待ってください、寺崎さん」

 会社を通り越したところで幹人が突然、足を止める。左手に伸びる細い路地の先を見ていた。

 「どうかしたの?」
 「あれ、なんの店だろう」

 そう言っている間にも幹人は駆けだしている。

 「ちょっ」

 天音が声を出したときには、路地の数十メートル先で立ち止まっていた。陸上選手も顔負け。どれだけ足が速いのか。いや、すばしっこいと言ったほうがいい。
 立ち止まって幹人の様子を眺めていると、看板を見ている彼が不意にこちらを見た。
< 56 / 251 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop