無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 「またお気に入りのひとつが増えるかもしれませんよ?」

 うまいことを言うものだ。気に入ったら、とことん選び続ける性質の天音の心を上手にくすぐる。

 「でも知らない道は行かないって決めてるの」
 「迷うのを心配してるなら大丈夫です。俺が一緒だから」
 「そういう問題じゃなくて、ひゃっ」

 突然腕を取られ、天音は思わず声を上げた。

 「ちょ、ちょっと……!」

 抵抗する間もなく、幹人はずんずんと歩いていく。引っ張られるというより、勢いに巻き込まれる感覚だ。

 「ただ見るだけですから」

 そう言っている間にも、彼はぴたりと足を止めた。
 古い木枠のガラス戸。白い外灯に照らされた小さな看板には、手書き風の文字で店名が記されている。シャッターはすでに下りていて、店内は暗い。

 「閉まってる」

 天音は無意識にそう漏らした。

 「でも、おいしそうなパン屋だと思いません?」

 幹人は少し残念そうに言いながらも、どこか満足そうだ。

 「……そうね」
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