無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 「行かなかったら、ずっと気になるので。それって、もったいない気がして。現に、道を逸れなかったら見つけられなかったですしね」

 幹人が少し得意げに言う。

 「……たしかに」

 天音は小さく頷いた。決まった道だけを歩いていたら、この店の存在に気づきはしなかっただろう。

 (今日はちょっと気が大きくなってるのかも)

 アルコールのせいだ。いつもなら即座に引き返していたはずだし、こういう状況は絶対に避けたいはずなのに〝まあいいか〟と思えている。普段の天音なら絶対に考えられない事態だ。

 「たまには脇道に逸れるのも悪くないかも」

 自分でも意外なほど素直な言葉が口をついて出る。生グレープフルーツサワーもそう。
 幹人は一瞬きょとんとしたあと、ゆっくり目を細めた。

 「デフォルトの寺崎さんにそう言わせた俺、すごくないですか?」

 誇らしげに言われ、素直に「すごい」と返す。

 「もっとそう言わせたいって気になる」
 「私に言われなくても、加地くんはすごいでしょ。一級建築士の資格なんて、なかなか取れるものじゃないし」


 平凡を絵に描いたような天音に言われたところで、なんの褒め言葉にもならないだろうが。
 幹人はなんだか苦笑いだ。

 「そういうことじゃなくて。まぁいいや。じゃあ今日は、ここまでですね」

 そう言って、来た道のほうへ体を向けた。
 加地幹人は、なんだか不思議な人だ。
 脇道から戻る足取りは、来たときよりも少しだけ軽い気がした。
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