無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 ようやく空気を読んだのか、男が一歩下がる。

 「驚かせてすみませんでした」

 そう言いながらも、どこか楽しそうなのが隠せていない。

 (この人、なんなの……)

 全然理解できない。

 男は「じゃ」と言って、店の奥へカメレオンと一緒に消えていった。

 犬と猫に癒やされ、静かに終えるはずだった今日。それがたった一匹の爬虫類と、挑戦と行動力を当然のように振りかざす男の出現によって、あっさり方向を変えられてしまった。いい迷惑である。

 外へ出ると、夜の空気がひんやりと頬に触れた。先ほどまでの出来事が嘘のように、街は静かだ。

 (ほんとにびっくりした。なんか変な人だったし)

 胸の奥に残るざわつきを、深呼吸で押し込める。

 (たまたま逃げた爬虫類と、たまたま風変りな飼い主に遭遇しただけ。明日には忘れているはずよ)

 そう自分に言い聞かせながら駅へ向かい、電車に揺られて最寄り駅で降りる。住宅街に入ると、街
 灯の数も人の気配もぐっと減った。
 都心から電車で三十分。天音の自宅は整然と並ぶ一戸建てと低層のマンションが続く、夜になると音の少ない郊外の街にある。コンビニの看板もまばらで、聞こえるのは遠くを走る車の音と虫の声くらい。
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