無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 住宅街に入ると、街灯の数も人の気配もぐっと減った。見慣れた道、見慣れた夜。ようやく、いつもの一日に戻ってきた気がする。
 家に着くと玄関の明かりが点いていた。鍵を開けて入ると、靴が二足きちんと並んでいる。

 (あ、もう帰ってるんだ)

 リビングから、ニュースを読み上げるキャスターの声と湯気の立つ匂いがした。

 「ただいま」
 「おかえり」

 ほぼ同時に返ってきた声は、父と母のものだ。
 ダイニングテーブルの向かい側には父、正信(まさのぶ)が読み終えた新聞をきっちり四つ折りに畳んでいた。白髪混じりの短髪に黒縁のメガネ。皺のない真っ白なシャツに背筋の伸びた姿勢が、そのまま性格を表しているような人だ。

 母、(こずえ)はエプロン姿で父へ湯呑を運んできた。肩につかない長さの髪をきれいにまとめ、きびきびと動く。

 父は銀行員、母は市役所の職員と、ふたりとも世間ではお堅いと言われる職業に就いている。派手さとは無縁の、きちんとした生活を絵に描いたような両親だ。天音が生まれたときにすでに他界していた祖父母は、どちらも教師だったらしい。

 「今日はどうだった?」

 梢が湯呑をテーブルに置きながら尋ねる。
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