無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 鈴川は笑いながら、幹人の肩を軽く叩く。距離の近さに気安さが滲んでいた。

 そのやり取りの間に、杉村はなにも言わず音も立てずに立ち上がっていた。カップを手に取り、ふたりの会話を遮ることなく、さっと視界の端を抜けていく。まるで、もともとそこにいなかったかのように。

 (どうしたんだろう)

 杉村らしくないなと思いながらその背中を一瞬だけ目で追い、すぐに視線を戻した。

 「寺崎」

 ふとこちらを見て、鈴川がにこっと笑う。

 「こいつ、俺の大学の後輩なんだよ」
 「そうなんだ」

 幹人は大学院の二年生だから天音とは四歳差。年齢的に計算が合わないなと思ったのを察したのか、鈴川が説明を加える。

 「卒業したあとも俺、ちょくちょく大学に顔出してたから」

 なるほど。話によると、鈴川が所属していたゼミの教授のところに、幹人が頻繁に質問に訪れて知り合ったのだという。

 「学生の頃から好奇心だけは人一倍だったよな。会社でも相変わらずだろ」
 「余計なこと言わないでくださいよ」
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