無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 幹人が苦笑すると、鈴川は楽しそうに肩をすくめた。

 「でも正直、入社してくれるの助かるよ。なにしろ期待のニューフェイスだからな。あ、そうだ、ちょっとこれ見てくれないか。フレッシュな加地の意見を聞かせてくれ」

 そう言って鈴川が抱えていたタブレットを幹人に見せる。ちらっと覗き見ると、図面のようだった。
 鈴川がタブレットを操作し、図面を拡大する。

 「ここ、エントランスホールなんだけどさ。意匠はこのままでいきたいんだよな。ただ、構造と動線がちょっと悩みどころで」

 幹人は覗き込み、数秒黙って画面を見つめた。さっきまでの気さくな空気が、すっと引きしまる。

 「……梁、ここに一本通してますよね」
 「お、よく気づいたな」
 「でもそれだと、正面からの視線が分断されます。天井高を活かしたいなら、梁を奥に逃がして、代わりにこの壁を耐力壁にしたほうがきれいです」

 さらりと言われ、天音は思わず瞬きをする。
 専門用語は完全にはわからない。それでも筋が通っていることだけは声のトーンと迷いのなさで伝わってきた。
 幹人は続ける。

 「人の流れも、入口で一度溜めてから左右に分けたほうが自然です。今の配置だと、どうしても中央が渋滞します。視線誘導も弱い」
< 73 / 251 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop