無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 「いつも通りだよ」
 「それが一番だな」

 バッグを肩から下ろしながら答えると、正信は満足そうに頷いて続ける。

 「トラブルはなかったか?」
 「……まあ、特には」

 一瞬、ペットショップの床を這うカメレオンの姿が脳裏を過ったが、わざわざ報告するまでもない。

 「そうか」

 正信はそれだけで安心したように湯呑に口をつけた。

 この家では天音が子どもの頃から〝特別なことがない〟のは、なによりも良しとされてきた。
 危なっかしい選択をしない。先が見えないものに飛び込まない。少しでも不安があるなら、やめておく。すべては慎重に無理なく。変化は求めず無難に生きていくのが一番だと。

 天音自身も、それが正しくて安心できる生き方だと信じている。というのも、小学生のときに一度だけ思いきった行動に出て失敗した経験があるからだ。
 自転車で知らない道を突き進んで迷子になり、さらにチェーンが外れ、怖くて寂しくて大泣き。たまたま通りがかったおまわりさんに保護され、迎えに来た父に『だからいつもの道にしろと言っただろう』と静かに諭された。

 まったくもってその通り。冒険は怖いものだと、痛いくらいに身に染みた瞬間だった。
 それ以来、無難な路線をひたすら突き進んでいる。
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