無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
天音はなにも言わなかった。振りほどきもしなかった。
だから余計に、自分のしたことがあとから重くのしかかる。
あれは近づきすぎだったと自覚したはずなのに、その数日後、例のパン屋で買った袋を手に朝のエレベーター前で天音と鉢合わせたとき、再び距離を誤った。
話しかけようとして、ほんの少し距離を詰めただけだったのに、それだけで彼女は一歩、後ろへ下がった。
ほんのわずかな動きだが、はっきりとわかる境界線。近づきすぎたのだと、言葉よりも早く理解してしまった。
拒まれたわけじゃない。嫌がられたとも限らない。それでも、胸の奥が静かにざわついた。
人と深く関わるのは得意じゃないのに、触れてしまった体温や引かれた一歩の意味を、なかったことにはできなくなっている。
人には踏み込むものじゃない。距離を測り、線を引き、その外側に立つ。それが、これまでのやり方だった。ところが気づけば、こちらが一歩ずつ調整している。視線の高さも会話の間も、沈黙の扱い方も。
理由も名前もつけられないまま、意識だけが先にあの人のほうへ向いている。
幹人はケージ越しにフレックスを見つめたまま、小さく息を吐いた。
だから余計に、自分のしたことがあとから重くのしかかる。
あれは近づきすぎだったと自覚したはずなのに、その数日後、例のパン屋で買った袋を手に朝のエレベーター前で天音と鉢合わせたとき、再び距離を誤った。
話しかけようとして、ほんの少し距離を詰めただけだったのに、それだけで彼女は一歩、後ろへ下がった。
ほんのわずかな動きだが、はっきりとわかる境界線。近づきすぎたのだと、言葉よりも早く理解してしまった。
拒まれたわけじゃない。嫌がられたとも限らない。それでも、胸の奥が静かにざわついた。
人と深く関わるのは得意じゃないのに、触れてしまった体温や引かれた一歩の意味を、なかったことにはできなくなっている。
人には踏み込むものじゃない。距離を測り、線を引き、その外側に立つ。それが、これまでのやり方だった。ところが気づけば、こちらが一歩ずつ調整している。視線の高さも会話の間も、沈黙の扱い方も。
理由も名前もつけられないまま、意識だけが先にあの人のほうへ向いている。
幹人はケージ越しにフレックスを見つめたまま、小さく息を吐いた。