無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
エレベーターを降りて夜のロビーに出ると、昼とはべつの静けさが満ちていた。照明に照らされた床が、かすかに冷たい光を返している。
「寺崎さん」
幹人が足を止め、こちらを振り向いた。
「さっきは、本当にありがとうございました」
「気にしないで。仕事だから」
「でも、それじゃ俺の気が済まないので、夕飯奢らせてください」
そう言って、少しだけ背筋を伸ばす。
「……え?」
「手伝ってもらったお礼です。ちゃんとした理由つきです」
その言い方がおかしくて、思わず吹き出しそうになる。
「学生がそんなことしなくていいの」
「給料もらってますし」
即座に返される。抜け目がない。
「一方的に頼るだけじゃ、フェアじゃないので」
理屈としては筋が通っている。
断る言葉を探している間に、幹人はさっさとエントランスの自動ドアをくぐった。
「この辺、飲食店いろいろありますよね。どこか行きたいところあります?」