無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 あまり気は乗らないものの一緒に食べると言った手前、駄々をこねるわけにはいかない。
 彼に言われてついていくと、五十メートルも歩かない場所に小さな店があった。木製の引き戸に控えめな灯りがついている。

 「ここ?」
 「はい。なんか、よさそうじゃないですか」
 「抽象的ね」
 「直感はわりと当たるほうなので」

 胸を張るあたりが、いかにも彼らしい。
 天音は店の前で一瞬だけ立ち止まり、ガラス越しに中を覗いた。落ち着いた照明に、カウンター席と小さなテーブルが数卓。騒がしさはなく、仕事帰りの客が静かにグラスを傾けている。

 「入ったこと、ないですよね?」
 「うん、ない」
 「じゃあ決まりですね」

 そう言うと、幹人は迷いなく引き戸に手をかける。しかし開ける直前、ちらりとこちらを見た。

 「本当に大丈夫ですか?」

 珍しく、確認するような目だ。天音が新しいものに飛び込むのが苦手だから、一応気遣ってくれたのだろう。

 「大丈夫」

 そう答えると、幹人は安心したように笑って戸を引いた。
 鈴の音が小さく鳴り、温かい空気が流れ出す。
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