無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 「いらっしゃいませ」

 明るい声に迎えられ、ふたり並んで足を踏み入れる。幹人は店内を見回し、空いているふたり掛けのテーブルを見つけた。

 「ここ、いいですか?」

 案内されるまでもなく、自然にそう振る舞うのが不思議と様になっている。
 椅子に腰を下ろすと、天音はようやく肩の力を抜いた。

 「思ったより、落ち着いた店ね」
 「でしょ。冒険したわりに安全圏でした」
 「安全圏って」
 「寺崎さんが逃げ出さない程度、って意味です」

 さらっと言われ、返す言葉に一瞬詰まる。軽口のはずなのに心のどこかを撫でられたような、くすぐったい動揺が走った。
 手に取ったメニューには見慣れない料理名が並んでいる。和風とも洋風ともつかない、不思議な組み合わせだ。

 「ほんとに創作ね」
 「どれも気になりますね」

 幹人が楽しそうにページをめくる。
 知らない店、予定外の夜。インターンと、仕事の延長線上ではない時間。どれもこれも、いつもの天音では考えられない。
 天音がメニューから顔を上げると、向かいの席で幹人がこちらを見ていた。

 「……なに?」
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