学校がこわい君へ ~ようこそ! ここはポン先生とカンちゃんの『学校攻略作戦室』です
第2話 いい子、やめたい
次の日。
わたしは、ものすごく迷っていた。
行く?
行かない?
学校攻略作戦室。
名前が変。
ポン先生は暑苦しい。
カンちゃんは謎な美少女。
でも。
昨日、少しだけ笑えた。
それが、頭から離れなかった。
結局、わたしは、午後だけ行くことにした。
ドアの前に立つ。
今日もあった。
『学校攻略作戦室』
~今日も生きのびろ!~
(やっぱり変……)
すると。
ガチャ!
「ヒマリー!!」
また大声。
「やっと来たか! 待ってたぞ」
「びっくりした!」
ポン先生だった。
今日もジャージ。
今日も声がでかい。
「来れたな! レベル1クリア!」
「レベル1?」
「そう!」
ポン先生が、ホワイトボードを指さした。
そこには大きく書かれていた。
本日のヒマリさんミッション
・来れたら神
・座れたら天才
・しゃべれたら優勝
「なんですかこれ……」
「大事なことだ!」
ポン先生が胸を張る。
「頑張れない時、人間はハードルを標高0まで下げる!」
「標高0以下でもいいよぉ」
カンちゃんが後ろから言った。
ソファに寝転がってマンガを読んでいる。
今日も黒パーカー。
今日は紅い髪は三つ編みになっている。
かわいい。
でも、今日もやる気がなさそう。
「カンちゃんのミッションは?」
「今日は座れたら優勝の日。あ、もしかしてヒマリちゃん勘違いしているかも。
わたしカンナは利用者じゃなくて、スタッフの一員なの~
支援員なのよ、もっと尊敬してね~」
支援員? 寝てるのに?」
「省エネモード」
ポン先生がわり込んだ。
「カンちゃんのこれは、サボりとも言う!」
ヒマリは、少し吹き出した。
「笑った!」
ポン先生が指差す。
「第二ミッション成功!」
「いちいち言わなくていいから」
カンちゃんのきつめの一言。
でも、少しだけ笑っていた。
作戦室には、普通の教室みたいな机はない。
丸いテーブル。
大きなクッション。
本棚。
ボードゲーム。
そして壁に――。
学校攻略メニュー
・教室の前まで行く(決して入ってはならない)
・保健室5分チャレンジ(5分以上は禁止)
・嫌な人回避マップ作り(絶対に会ってはならない。会ったら死ぬぞ)
・断り方の練習(毎日トレーニングすべし)
・先生へのセリフ研究(テキストがある。テキストで練習だ)
(なにこれ……)
ゲームみたい。
ヒマリは少しだけ近づいた。
「学校ってさ」
カンナが言う。
「根性で行く場所じゃない」
「攻略する場所」
ヒマリが見る。
「ゲームでも、強敵いたら作戦考えるじゃん」
「……たしかに」
「だから作戦」
ポン先生がどや顔。
「気合いは禁止!」
「昭和教師だった人が言う?」
カンナのツッコミ。
「あのね、ヒマリちゃん。
ポン先生ってね、わたしの小学3年生の時の担任なの。
パワハラ気質の危ない先生だったんだよ」
「それを言うな。わしは反省しとる!」
「昔、鬼だった」
「鬼?」
「めっちゃ怖かった」
「こらぁぁぁ!!って感じ」
カンちゃんがマネする。
「そんなに!?」
「でもな」
ポン先生の顔が少しまじめになる。
「昔、頑張れって言いすぎて、学校来れなくなった子がおった
カンナもその一人」
空気が少し静かになる。
「だから、もう二度と、子どもを追いつめたくない」
わたしは、なんだかすっと楽になった。
この先生、変だけど。
たぶん本気なんだ。
「さて」
ポン先生がイスを引いた。
「ヒマリ会議!」
「会議?」
「作戦を立てる!」
「学校の何が一番しんどい?」
ヒマリの指が止まる。
胸が少し苦しくなる。
でも、ここでは、何を言っても怒られない。
だから、少しだけ言えそうだった。
「……友達」
「うん」
「悪口に合わせた」
「うん」
「本当は嫌だったのに」
涙が少しにじむ。
「でも、空気壊したくなくて」
「うん」
「次の日、わたしが外された」
静かになる。
ヒマリは続ける。
「嫌われたくなかったのに」
カンちゃんがココアを持ってきた。
「なんで……?」
涙がぽろっと落ちた。
「なんで嫌われるの?」
すると。
カンちゃんが、ぼそっと言った。
「それ、わたしも思った。
わたしもいい人やってた気がする」
「空気読んで」
「笑って」
「合わせて」
「でも限界きて、壊れた」
カンちゃんは窓の外を見た。
「ある日、朝起きたら、体が動かなかった」
「……それで?」
「学校ムリ勢になった」
「軽く言うね……」
「重くすると泣くから」
わたしは少し笑った。
「でもさ」
カンちゃんが続ける。
「がんばった人ほど、壊れる。
だから、ヒマリが弱いわけじゃない」
その言葉が、わたしの頬を叩いた気がした。
はっとした。
初めてだった。
気にしすぎじゃなくて。
弱いからでもなくて。
わかってもらえた気がした。
すると突然。
ポン先生が立ち上がった。
「よし!」
「第一回・学校攻略会議!」
「敵を整理する!」
「敵?」
「うん」
ホワイトボードに書き始める。
ヒマリを困らせる敵
・女子グループ
・いい子をやめられない自分
・学校=全部おしまいと思う気持ち
「……敵、多くない?」
「ラスボス級だな」
カンナが言う。
「でも倒せる」
「え?」
「分ければいい」
カンナがペンを持つ。
「いきなり学校行かなくていい」
「まず怖さを小さくする」
ポン先生もうなずく。
「だから今週のミッション!」
ホワイトボードに大きく書く。
### レベル1
朝起きる
### レベル2
服を着る
### レベル3
作戦室に来る
「低っ!」
わたしは思わず言った。
「今はそれでいい!」
ポン先生が胸を張る。
「生きのびるのが最優先!」
こんな大人、初めてだ。
学校へ行けって言わない。
頑張れって言わない。
でも。
見放さない。
その時。
スマホが震えた。
画面を見る。
ミユちゃん。
心臓が止まりそうになる。
怖い。
でも開く。
『ねえ』
『もう学校来ないの?』
一瞬、少しうれしい。
でも。
次のメッセージで、手が止まる。
『正直、空気重くなるから来なくてもいいかも』
笑顔のスタンプ。
ヒマリの顔色が変わる。
「……あ」
呼吸が苦しい。
涙が出そう。
すると。
カンナがスマホをちらっと見た。
「最低」
短く言った。
そして。
「ヒマリ」
「……うん」
「そいつ、友だちじゃないから。
敵だから敵。返信するな。ブロックしろ」
ポン先生も言う。
「次の作戦、考えよう。学校はまだまだ先だ」
でも、わたしは思った。
(やっぱり……わたしなんて嫌われ者)
その夜。
わたしは涙がとまらなかった。
朝まで泣き続けた。