夜盲
10月とピアスホール
秋の夜風と街灯のひかりが、ふたりきりの公園をぬらりと撫でつけている。ベンチテーブルの上に放り出したビニール袋が、風とともにがさがさと乾いた音を立てた。佳乃くんのキーケースを重しの代わりにしていたので、ビニール袋が風で飛んでいくことはない。そこに留まったまま、ときおり秋風に揺られて影の形を変えた。
佳乃くんは、パッケージに書かれている製品説明を軽く読んだあと、あたしの耳朶に、冷たいプラスチックの塊をあてがった。
「じゃーいくよ?」
「まって、佳乃くん! やっぱこわい!」
「だーいじょぶだって。耳元でホチキスをバチってする感覚だから」
「それがこわいんだってば」
彼が持っているのは、リップクリームくらいのサイズしかない、プラスチック製のピアッサーだった。ファーストピアスがあらかじめセットされていて、穴開けとファーストピアスの装着が同時にできるタイプ。さっき、ドラッグストアで買ってきたのだ。
「ビビるなよ。宵がピアス開けたいって言ったくせに」
「開けたいよ? 開けたいけど、なんかこう、いざその瞬間になると、急にこわくなるっていうか!」
「じゃー、自分で開ける?」
それはもっと嫌だから、ふるふると、首を横に振る。ピアスを開けたいっていうよりも、どちらかといえば、佳乃くんにピアスを開けてほしかったのだ。
なんでこんなことがしたくなったかといえば、最近話題のドラマでそういうシーンを見て、いいなって思ったからだ。一週間で消えてしまうキスマークなんかより、ずっと消えないピアスホールを開けてもらう方が、なんだかロマンチックだし。
あたしは基本的に流行に影響を受けやすい浅はかな女だから、そういうことはすぐに実行したくなってしまう。さらに言えばあたしは深く考えずに行動しがちなタイプだし、同様に佳乃くんもその場のノリで行動しがちな軽い男だから、ピアスを開けてほしいっていうあたしのお願いを彼が断るわけもなく、実際にピアッサーを買って穴開けを実行するに至るまでわずか一日未満の出来事となった。まあ、前戯の一種みたいなものだ。
「……次は頑張るから、佳乃くんが開けて」
「ん。じゃあ左耳からね」
もう一度、プラスチック塊が耳朶に当てられる。
ベンチの上で身体を縮こませて、来たる刺激に備えた。
「せーの、で開けるから」
「はい……」
「せーの、」
掛け声と同時に、耳元で破裂音がした。世界が弾け飛んだんじゃないかって思ってしまうほどの音量に、びっくりする。痛みより、音の方がこわかった。だが、想像していたような激痛はなく、安堵する。
「左耳、開いたよ」
「もう開いたの?」
「うん。触ってみれば」