夜盲
同じくらいの量のお酒を飲んでいたはずの佳乃くんは、すっかり酔いが醒めたとでも言いたいみたいな顔をして向こう側に歩いていく。煙草を吸いに行くといったのはきっと本当のことで、たぶん、彼はこれから喫煙所を探しに行くのだろう。
やだ、こんなときに、しかもこんな場所で、ひとりになんかなりたくない。
なのに、立ち上がれない。
佳乃くんはこっちを振り返ることもせず、大きな歩幅でゆったりと、路地を進んでいく。あたしはその背中が遠くなっていくのをただ見つめることしかできず、気がついたら彼の姿は見えなくなってしまった。
鼻の付け根に、不快感がたちのぼってくる。抑える間もなく、目頭からぼろぼろと涙があふれてきた。
「……っ、ひっ、く」
面倒な女にならないようにしようって、今まで我慢してきたのに。ぜんぶお酒のせいだ。判断力が鈍って、佳乃くんの首筋についたキスマークに過剰に反応してしまって。あたしは一体なんなんだろう。
とりあえず、立たなきゃ。佳乃くんのとこ、行かなきゃ。
さっきよりも視界がぐわんぐわんとする。頭が痛い。前後がわからない。立てない。さっきどっちから来たんだっけ。喫煙所の方向ってどこだっけ。
壁に手をついて、なんとか立ち上がる。ひとまず、佳乃くんが立ち去っていった方向に歩いて行こう。それから、喫煙所を探そう。ごめんなさいって謝って、佳乃くんの機嫌を直さなきゃ。
そのときだった。
顔に、一粒、冷たい点が降ってくる。ぽつぽつと、足元のアスファルトにも粒が落ちる。
……うそでしょ。傘なんて、持ってきてない。
ひとまず大通りに出ようと思い、ふらふらの足取りでなんとか歩いていくが、あたしはそもそも方向音痴だし、さらにアルコールが入ってじょうずに回らない頭では、道に迷うまでさほど時間はかからなかった。佳乃くんが行った先もわからないし、その辺にいるお酒の入った大人たちに喫煙所の場所を尋ねるのにも抵抗がある。
どうしたら良いかわからなくておろおろしているうちに、雨足は徐々に強くなる。
ひとまず、人気のない、屋根のある場所を探す。シャッターが閉められた寂れた喫茶店の前に、雨から逃れられそうな日除けの屋根を見つけたので、そこに身体を滑り込ませた。その瞬間、今度こそ力が抜けて、地面にへたりこむ。
空から降り注ぐ粒は大きく、アスファルトの地面を叩きつけていくようだった。天気予報をきちんと確認する習慣なんて、あたしにはない。佳乃くんだってきっとそう。彼も今頃、どこかで雨に当たっているかもしれない。
佳乃くん、どこにいるんだろう。
震える手でスマホを操作して、佳乃くんに電話をかけるが、いくら待っても通話は繋がらない。彼はこの雨からどう逃れたのだろう。どこかひとりで店にでも入っているのかもしれない。だとすれば、あたしはほんとうにひとりぼっちだ。