夜盲


 そのまま、隣の部屋の扉を開けた。



「のーあくん。手筈通りに」



 いつものようにテレビ画面に向かってゲームをしていた乃亜くんが、あたしの来訪とともにヘッドフォンを外した。

 今日の彼はあたしに文句を言わない。あらかじめ、あたしがここに来ることを伝えていたからだ。

 乃亜くんはあたしの顔と、あたしの左手にある佳乃くんのスマホを見比べる。



「ほんとにやるの」

「あたし、やられっぱなしじゃ納得できない性分だから」

「あっそ」



 佳乃くんのスマホを、乃亜くんに渡す。

 乃亜くんがスマホの電源ボタンを静かに押し込むと、画面上部にロックが解錠されたことを示すアイコンが現れた。

 佳乃くんのスマホが開いた。こんなにも呆気なく、こんなにも簡単に。



「やっぱり乃亜くんなら、佳乃くんの顔認証突破できるんだね」

「なんでこんな裏技知ってんの」

「お姉ちゃんの免許証使ってマッチングアプリ登録したって、前に話したでしょ? そのとき、姉妹でも本人確認の顔認証通ったから、兄弟でもできるかなって思って」



 佳乃くんのスマホから、真っ先にメッセージアプリのアイコンをタップする。

 案の定、トークルームには女の名前がちらほらと並んでいた。その中から、害のありそうな女のアイコンを見繕う。

 後ろ姿の他撮り写真がアイコンの女がなんとなく気に食わなかったので、その女とのトーク画面を開く。最後の連絡は一週間前。女の方から、〈次いつ会える?〉と連絡が入っていて、それを佳乃くんが未読無視しているという状態だった。

 だるいなあ。おまえが佳乃くんと会うことは、もう二度とないから。



〈好きな子できたからもう会えない〉



 勝手にメッセージを打って、送信。からの、返信を待たずに相手をブロック。さらにブロックリストからも削除する。

 それを、他の女にも繰り返した。

 爽快だ。清々する。佳乃くんに付き纏う女なんか全員消えてしまえ。どうせあたしよりブスなんでしょ。佳乃くんと性的関係を持っている女たちの中では、あたしが一番可愛くて、あたしが一番若いはず。だったら、あたしだけで良くない? 他の女なんて要らなくない?



「夢見さんの行動力、たまにすこしだけ羨ましくなる」

「何言ってんの。乃亜くんだって共犯でしょ」



 にへら、と笑いながら乃亜くんを睨みつける。乃亜くんはあたしの顔をじっと見つめる。温度感の合わない視線の交差がなんとも奇妙だった。

 すると乃亜くんが、「え?」と無味無臭な疑問符を零した。



「夢見さん、耳、どしたの」

「え? 耳?」



 右耳に触れる。先月佳乃くんに開けてもらったパールのファーストピアスが中指に当たった。

 耳って、これのことかな。



「10月にピアス開けたの。今まで気づかなかった?」

「うん、全く」

「スタバにいたときも、この前自転車乗ったときもつけてたのに?」

「気づかなかった」

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