夜盲




「突撃インタビューのお時間です」

「…………」

「無視しないでよ」



 乃亜くんはリビングのソファーに背中を預けながら、あたしを無視してゲームを続けている。

 彼はスマホを横持ちにして、今日も今日とて、器用にシューティングゲームをプレイしていた。白い有線のイヤホンをぴったりと両耳にはめている。いまどき、有線のイヤホンを使っている人なんて乃亜くん以外に見たことがない。

 そもそも、イヤホンをつけているとはいえ、こんなに至近距離から話しかけているのだから、乃亜くんがあたしの存在に気づいていないわけがないだろう。何をどう考えても、無視されている。

 むかついたので、乃亜くんの右耳からイヤホンを引っこ抜いた。乃亜くんは眉間にしわを寄せながらあたしを一瞥する。



「邪魔しないで」

「乃亜くんが無視するのが悪いんじゃん」



 乃亜くんの右隣に、ぼすん、と座る。乃亜くんはやや左側にずれて、あたしが座るスペースを空けてくれた。ふたりの間には拳ふたつ分の空白がある。恋愛関係にない男女にとっての、適切な距離って感じだった。



「そのゲーム、うちのクラスの男子もやってるけど、おもしろいの?」

「おもしろくない」

「じゃあなんでやってるの?」

「頭使わなくていいから、楽ってだけ」



「頭使いたくないならやらなきゃいいじゃん」と単純な疑問を口にすると、乃亜くんは澄まし顔で「そーだね」と生返事をする。あたしの論理は乃亜くんには通じないらしい。



「ていうか、佳乃のとこ戻れよ」

「煙草の買い出しに行っちゃった」

「一緒に行けばよかったのに」

「ひとりで一服してから帰りたいって」



 着いて行きたいのは山々なんですけどねー、と愚痴を零したが、それはしれっと無視されてしまった。そういうの、どうかと思うけど。

 それよりも。紗良たちから言いつけられていたように、あたしには、乃亜くんに好きな人がいるかどうかを聞き出すというミッションがある。



「ていうか、あたしは乃亜くんに用があるの」

「なに」

「乃亜くん、好きな人はいますか?」



 マイクを持つように右手を握り、乃亜くんの口元に差し出した。彼は一瞬だけ視線をこちらに向ける。



「なんで夢見さんがおれにそんなこと聞くの」

「諸事情ありまして」

「その諸事情ってやつは?」

「えー。どこまで言えばいいんだろ」



 もちろん紗良の名前は出しちゃだめだろうから、その辺はふわっと誤魔化さないといけない。どう説明すればいいかな。



「知り合いに、乃亜くんのことが気になってるっていう女の子がいてね。あたしは調査を頼まれたのです」

「ふーん」

「それで、好きなひとは?」

「いない」



 乃亜くんは片耳イヤホンでゲームをし続ける。なんだこいつ、つまんねー男だ。

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