夜盲


「じゃあさー、気になってるひとは? 可愛いな〜って思う子とか、タイプの子とか。なんか妙に気になるな〜って子とか。高校にいないの?」

「……気になるひとなら、いるかも」

「うそ!!!! 誰誰誰!? どんな子!?!?」

「ねえ、うるさい」



 へえ、乃亜くんもふつうの男の子じゃん。ゲームが恋人とか、変なこと言わなくて良かった。

 乃亜くんが気になってる子って、どんな子なんだろう。自分と同じ、おとなしい子がいいのかな。それとも、自分とは真逆のタイプの女の子に惹かれるのかな。どっちなんだろう。

 彼は、「あー」とすこし口籠もる。



「おれ、そーいう面倒なの嫌いだから、その子には無理って言っといてくれない?」

「えー。でも、気になってる子はいるんでしょ?」

「いるけど」

「その子が、乃亜くんの言う、気になってる子かもしれないじゃん」

「いや、それはない」



 なんでそう言い切れるの、って言おうとして、やめた。

 あたしの察し能力はそこまで悪くない。

 乃亜くんがこうにも断定的に、「それはない」って言い切れる理由なんて、余程の天然バカじゃない限り、考えればある程度は推測できちゃうものだ。

 ……いや。でも、想像したくないな。



「乃亜くん。それ、失言?」

「……あー、うん。失言かも」



 何かを察したあたしと、何かに気づいた乃亜くんの間に、一気に緊張感が走った。さっきまでふつうだったのに、些細な発言ひとつでこうも空気が変わってしまうものなのだな、と実感する。

 乃亜くんも、ばかだ。適当に誤魔化せばいいものを、口を滑らせて、自分の発言を失言だって認めてる。

 つまりそれは、たぶん、あたしの予測通り、乃亜くんが気になってる相手は目の前にいるということ。だから、あたしの言う“知り合いの女の子”の好意には報えないと断言したんじゃないかって。そんなことを想像してしまうのだ。



「じゃー、ここからは真剣な話ね。それ、告白?」

「不本意だけど」

「ふーん」



 こんなの、事故だ。

 ゲームしながら適当に喋る乃亜くんの悪い癖と、思ったことをなんでもすぐ口にしてしまうあたしが衝突したことで起こった、最悪な事故。

 ていうかなんで。いつから。どのタイミングで。あたしのどこが。

 そう問い詰めたかったけど、多分乃亜くんは答えてくれないだろうし、さすがのあたしでも、それをずけずけと掘り起こすのには抵抗がある。そんなの、聞けるわけがない。

 どちらにしたって、乃亜くんがあたしに好意を向けるようになったタイミングがいつなのかは、なんとなく想像できた。

 きっかけは、たぶん、雨の中で一緒に自転車を漕いだあの日だと思う。

 シラフで思い出したくはないけれど、乃亜くんの腰に抱きついて雨の中を滑走したあの日以降、あたしと乃亜くんの距離は確実に縮まった。思い返すと、乃亜くんが変になったのはあの日からだ。

 あれもこれもと、色々なことが繋がっていく。

 たとえば、今まで気づいていなかったあたしのピアスに、突然乃亜くんが気づいたこととか。

 佳乃くんのスマホのロックを解除する協力をしてくれたくせに、これからも協力してよって言ったとき、不服そうにノーを突きつけてきたこととか。

 さらにいえば、雨の日の駐輪場で乃亜くんが言った、意味不明な言葉の意味とか。

 ぜんぶ、自転車の二人乗りをしたあの日以降の話だ。あの日から乃亜くんの気持ちが変わったと考えれば、彼の奇妙な言動の数々にも、筋が通る。

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