夜盲
「それ、本気で言ってんの?」
「本気だけど、べつに佳乃から奪うつもりもないし、夢見さんをどうにかしようとは思ってない」
「じゃあ、乃亜くんはどうしたいの」
「せめて、佳乃じゃなければいいのにって。そう思うくらい」
好きなひとに振り向いてもらえない恋の痛みに関しては、あたしにも身に覚えがある。今現在だってそうだ。何度も何度も身体を重ねても、佳乃くんはちっともあたしを好きになってくれない。
その痛みを知っているからこそ、乃亜くんから向けられた迷惑な恋心にも、真摯に向き合ってあげたいとは思う。
だけど、そもそも乃亜くんの方が真剣じゃない。
失言しちゃったので白状します、みたいな言い方が、どうにも気に食わなかった。それって、逃げているのと一緒じゃん。乃亜くんの方が、そもそもあたしに向き合おうとしていないじゃん。
「これはね、真剣な回答として聞いてほしいんだけど」
「……うん」
「乃亜くんのそういうとこ、嫌い」
いつの間にか乃亜くんはゲームをやめていた。
有線イヤホンが繋がれたままのスマホがソファーの上に投げ出されている。画面は暗転していた。
「乃亜くんがあたしを好きだったとして。好きなら好きってまっすぐ言ってくれないくせに、あたしが佳乃くんを選ぶのは嫌とか、独占欲の方向が意味わかんない」
乃亜くんと佳乃くんの違いって、ここだ。佳乃くんは、手に入れたいものを最短距離で手に入れようとする。いい意味でも悪い意味でも自分の欲求に忠実で、自分の思ったことを素直に伝えてくれる。
あたしは佳乃くんの、自由気ままでまっすぐな生き方に惹かれているのだ。
「乃亜くんが仮に、一世一代の覚悟をきめて、全部だめになる覚悟で告白してきたなら、あたしはあたしなりに、乃亜くんにちゃんと向き合うと思う。でも、乃亜くんは違うでしょ? あたしが佳乃くんのこと好きなの知ってるからって、全部の言葉に保険かけるとか、ふつうにダサくない? 全部投げ出して好意を見せてくれるわけじゃないなら、あたしのことが好きとか、適当なこと言わないで」
乃亜くんはソファーの上で、折り曲げた脚を抱えている。顔の下半分を隠すように、腕の中に顎を埋めている。佳乃くんに似ているのは、その横顔だけだ。
「おれは、夢見さんのそういうとこが、好きなのかもしれない」
「かもしれない、って何」
「……好き」
たった2文字の単純な言葉が、湿度とともに、こちら側に迫ってくるような感覚がした。
あたしは心の中のどこかで、どうせ乃亜くんがストレートに好意を伝えてくるわけがないって、そんなふうに高をくくっていたのかもしれない。
だからこそ、重い。
佳乃くんが行為中に言う、本当か嘘かわからない言葉よりも、随分と単純で、随分とシンプルなものであるはずなのに、その2音がどうにも重いのだ。
ていうか、どうしよ。ちゃんと告白されちゃったじゃん。こうやって告白されてしまったら、本当に冗談じゃ済まなくなる。あたしが乃亜くんを挑発したくせに。あたしがその言葉を引き出したくせに。
あたしは最低だ。
だってあたし、佳乃くんが好き。