夜盲




 商業ビルに入っているバラエティショップの片隅で、右手に持ったラメ入りアイシャドウと、左手に持ったマットなアイシャドウを見比べる。

 色はどちらも、くすみピンク。ラメ入りの方が可愛いけど、スクールメイクに取り入れるならマットの方が使いやすい。ラメ入りのシャドウは他に何個も持っているから、今日は大人っぽいマットシャドウを買おうと思っていたのに、うっかり新色のラメ入りシャドウに見惚れてしまう。あーどうしよ。ラメの方が可愛いかも。



「夢見さん。話、あるんじゃないの」



 隣であたしのコスメ選びに付き合わされていた乃亜くんが、平坦な声で言った。

 横目で乃亜くんの姿を確認すると、彼の視線は一応陳列棚に注がれていたけれど、口角は下がっていて、かなり退屈そうだった。乃亜くんは防寒のために制服の上からダウンジャケットを着ていたが、屋内の暖房が強いせいか、熱がこもって頬が若干赤らんでいる。



「あるけど、その前に買い物」

「別に話なら、うちに来たときで良かったじゃん」

「佳乃くんがいないところで話したかったの」

「あー、そう。それで、あと何買うの」

「ちょっと待って。悩んでるから」



 テスターを手の甲に塗って、色の映え方を確認する。ラメの方は、細かい粒子がきらきらしていて、かなりあたし好みだ。かといって、マットも捨てがたい。



「それ、何に使うの」

「瞼に塗るの」

「塗ったらどうなる?」

「塗った方が可愛くなれる」



 ふたつのパッケージを並べて、「これとこれ、どっちがいいと思う?」と乃亜くんに聞いてみる。

 彼はすこし悩んだあとに、ラメの方を指さした。

「なんで」って聞いたら、「夢見さんが好きそうだから」と返ってくる。似合いそうなのはどっち、っていう意味で聞いたのに、あたしの好きそうな方を選んだりして、何がしたいんだろう。そりゃあ、確かにラメの方が好みだけど。



「じゃあこれと、あと、クリーム買うから。そしたら、屋上行こ」

「屋上?」

「知らない? ここの屋上、展望テラスみたいになってて、無料で過ごせるんだよ」

「ふうん」



 遊び慣れていない乃亜くんは、あまり商業ビルになじみがないのかもしれない。まあ、それもそうか。毎日毎日、飽きもせずにゲームばかりしているのだから、こういうのには疎いのだろう。

 いつも使っている、薄付きのライトベージュの下地クリームと、ラメのアイシャドウを持ってレジに向かい、支払いを済ませる。

 それから、ショッパーを指先に引っかけて、エスカレーターで屋上に向かった。

 側から見れば、あたしたちはカップルに見えなくもないだろう。同じ高校の制服を着た男女が、放課後に商業ビルで買い物を嗜んでいる、みたいなシチュエーションなんて、誰がどう見ても恋人のそれだ。だけどその実情はだいぶ拗れている。

〈聞きたいことがあるから放課後会おう〉とメッセージを打って乃亜くんを誘ったのはあたしの方だった。乃亜くんからはわりとすぐに、〈わかった〉と返信が来た。

 乃亜くんにしてみれば、好きな人とデートじみた真似事ができるのだ。来ないわけがなかろう。

 あたしは、乃亜くんからの好意を利用してる。

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