夜盲




 教室のベランダの柵にもたれながら、彩海が「ふうん」と相槌を打った。

 密度が高くてぱっちりと上向いたまつ毛に飾られた彩海の視線は、グラウンドの中に注がれている。その目線の先では、サッカー部の誰かがボールを高く蹴り上げていた。放課後のグラウンドからはいたるところから笛の音や誰かの歓声が聞こえてくるけれど、それとは裏腹に、あたしと彩海の会話のトーンは重たかった。

 どうしてもひとりで抱えきれなくなってしまい、町田家兄弟を取り巻く一連の出来事を、かいつまんで彩海に話して聞かせたところだった。

 彩海はあたしの話に丁寧に相槌を打ったあと、「ちょっと言いづらいんだけどさ」と前置きをする。



「宵は、紗良のこと、だいじょぶなの?」

「大丈夫じゃないと思うし、紗良には今朝も無視されたけど。でも、あたしが謝ったところで紗良がどうにかなるとは思えなくない?」

「まあ、それはそうね。伊織は?」

「伊織は、挨拶は返してくれるけどってかんじ」

「あー、めんどいね」

「ほんとにだるい」



 1年A組の運命共同体は、もはやグループの形を成していない。

 あたしと乃亜くんの距離が縮んでいるのが気に食わないと、紗良がキレているらしい。当然、昼休みに4人全員で一緒に過ごすことも難しくなり、グループは真っ二つに分裂してしまった。

 あたしは彩海と。紗良は伊織と。クラスの誰が見ても明らかなくらいに、あたしたち4人グループのあり方は変わってしまった。とはいえ、彩海は別に、伊織とも紗良ともうまくやっている。

 つまり、あたしだけがグループの中で、微妙に浮いてしまっているのだ。

 はあ、と何度目かもわからない溜息を吐いたとき、ベランダと教室をつなぐ窓がからりと開かれた。その音に振り返ると、クラスメイトの女の子がいる。



「宵ちゃん、町田くんが呼んでる」



 彩海が隣で、「噂をすれば」と零す。窓越しに教室の中に視線を戻すと、教室の入り口のところに、確かに乃亜くんの姿があった。ちなみに、乃亜くんがあたしを呼んでいるんじゃなくて、あたしが乃亜くんを呼んだのだ。



「彼氏、迎えにきたじゃん」

「彼氏っていうか、こっちが一方的に利用してるだけだから」

「宵はあれくらい追ってくれる人の方が合ってると思うけどなー」

「でも、追われる恋ってつまんなくない?」

「懲りないねー、あんたって子は」



 早く行きな、と彩海があたしを急かす。んー、と適当な相槌を打ってから、あたしはベランダから教室に戻り、荷物を持って乃亜くんのところに向かった。彩海はもうすこし時間を潰してから塾に行くらしい。

 乃亜くんは待たされたことを怒ることもしない。そういうところが、乃亜くんにいまいち惹かれない要素だった。

 乃亜くんはあたしに逆らわない。

 来い、と言えば来るし、荷物を持て、と言えば持ってくれる。乃亜くんはきっと、あたしが死ねと言えば死ぬのかもしれない。



「佳乃くんは、家?」

「今日はたぶん家にいる」

「そ。じゃーそっち行けないね」

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