夜盲


 目元を拭ってから乃亜くんを睨みつけると、なぜか乃亜くんもちょっとだけ目が赤かった。



「なんで乃亜くんが泣きそうになってんの」

「……わかんない」

「変なの」

「やっぱり、夢見さんに嫌われるのは、こわい」

「あたしに嫌われるようなことをしたのは、乃亜くんの方でしょ」



 乃亜くんが言われたくなさそうな言葉をあえて選んで、その刃で乃亜くんを傷つけている。あたしは乃亜くんを攻撃することで、自分が優位になっていることを確認し、ちっぽけな自尊心を満たしている。あたしから離れられない乃亜くんはそれを受け入れるしかない。あたしたちの会話はずっと不毛だった。

 こんなことをしていても、何にもならないとわかっている。

 むやみやたらに乃亜くんを傷つけて、紗良とも話せなくなって、花音さんのネットストーキングをしたりして、あたしは間接的に自分を追い込んでいる。



「夢見さんは、ほんとは何がしたいの」

「佳乃くんに会いたい。だけどそれができないから、傷つけたいし、ぜんぶ壊したいの」

「それは、おれを?」

「わかんない、けど。乃亜くんに八つ当たりしても満たされないの」



 乃亜くんはあたしの肩を抱き寄せた。

 後頭部を掴んで、あたしの額を自分の肩のあたりに押し付ける。あたしがわっと泣き出したのを見逃さなかったのだ。

 乃亜くんは、佳乃くんよりもやさしいと思う。だけどあたしは、退屈なやさしさが欲しいわけじゃない。

 あたしの中にある破壊衝動はちっとも収まってくれない。きっと、佳乃くんと、花音さんが不幸にならないと、どうにもならないあたしの恋心は、ずっと宙をさまよい続けることになるだろう。

 ならば。ならばいっそあたしが、あたしの手で、佳乃くんと花音さんに復讐できたら。

 そんなことを考えてしまうのだ。



「乃亜くん、お願いがあるの」

「なに」

「今度、佳乃くんと花音さんが家にいるとき、あたしを家に呼んで」



 あたしはずっと揺れている。

 不安定で、根っこの部分がぐらぐらと揺れて、ずっと足元がおぼつかない。

 そろそろ、すべてを清算しなければならなかった。



「どうして」

「乃亜くんは、なんでもしてくれるんでしょ? お願い、乃亜くんだけなの」



 有無を言わさぬ口調で乃亜くんに詰め寄ると、乃亜くんは戸惑いがちに頷いて、それを受け入れた。

 乃亜くんは、破滅の道に突き進むあたしと一緒に沈む覚悟をしているみたいだった。

 世界の中でただ一人、絶対的にあたしの味方でいてくれるこの男の愚かしさを嘲笑しているくせに、あたしは乃亜くんを振り払うことができない。

 あたしは女。痛くてキモくて、直情的でメンヘラで、佳乃くんが大嫌いなタイプの女。痛くて熱い恋に、つねに溺れていたい。

 あたし、このままじゃ、佳乃くんを殺してしまうかもしれない。

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