夜盲
3月とフープピアス
2週間ぶりの教室の空気が、気まずくないといえば嘘になる。
彩海も、紗良も、伊織も。急に2週間も学校に来なかったあたしを、変な子だと認識しているだろう。
もしかすると、あたしが今まで停学になっていたという噂も、すでに回っているのかもしれない。
嫌だな。どうせみんな、あたしのこと、ヤバい奴だって思ってるんでしょ。
それでも、行かなければならない。こんなことで心が折れるほど、あたしはひ弱じゃない。まあ最悪、あと2週間もすれば春休みに入るし、新学期になればクラス替えがある。それまで辛抱すれば、どうにかなるはずだ。
1年A組の教室の前で、大きく息を吸い込んだ。
窓際の後方の席に、彩海がいる。しかも、紗良と伊織もくっついていた。早速、やりづらい。
「……みんな、おはよ」
彩海と目が合う。伊織と紗良もあたしの存在に気がついたようだった。彩海はあたしの顔をまじまじと見つめて、眉をひそめる。
「なんで停学だったの?」
彩海だけじゃない。伊織も、紗良も、興味本位であたしからの返答を待っているみたいだった。
紗良と伊織がいるところで、話したくなかったんだけどなあ。
そんなことを思いながら、あたしは声のトーンを一つ上げる。
「あたしを捨てた男、バッドでぶん殴ったら大事になっちゃった!」
3人だけじゃない。教室内の視線すべてが、あたしに向いている気がした。あたしは、声がデカいから。
一番最初に笑い出したのは、紗良だった。
「なにそれ!! 超うけるんだけど!!!!」
げらげらと、声を上げて笑っている。その表情が嘘には思えなくて、あたしはヤケクソになりながらも大声で、「まじでクソ男だった!!」と続ける。
彩海も、笑い始める。伊織もそれに続いた。
紗良に謝るなら、今しかない。
「紗良、ほんとにごめん!! なんか乃亜くんに告白されちゃって、なんか乃亜くんといい感じになっちゃった!!!! 節操なくてごめん!!!!」
「あー、それ、もういいよお。てか今、西高の翔太くんと付き合ってるし」
「はあ!? それ伊織の元カレじゃん!」
「いや~、告白されちゃってさあ? ね?」
「紗良ってまじ最悪だよね? うちはもう別にいいんだけどさあ?」
「宵も節操ないけど、紗良もなかなかだよねー」
あー、そうだった。紗良が面食いで、顔さえ良ければなんでも良いっていうタイプだったの、忘れてた。そりゃあ、他にいい男がいれば、紗良はそっちに行くに決まってる。
じゃあ今までのギスギスは何だったのって。そんな文句を垂れながら、あたしたちはずっと、空いた穴を埋め合うように恋の話をし続けた。
ばかばかしくて、ずっと笑っていた。
完璧なほどに固められた前髪。ギリギリ校則違反のスカート丈。怒られない程度に引いたアイライン。つやつやの唇。みんなで渡れば、校則違反なんて怖くない。昼休みになればトイレの鏡を占拠して、普段は教室の真ん中で、大きな声で笑い合う。
あたしたちは1年A組の運命共同体。好きなものは、恋愛と、メイクと、誰かの噂話。伊織はネットストーキングが得意で、彩海は毒舌で、紗良はコスメばかり集めている。みんな総じて、前髪を守ることに命をかけている。嫌いなものは、浮気をする男と、浮気相手の女、元カレの今カノ、今カレの元カノ、それから、あたしたちに害のある人間全般。
あたしたちは、強い結束で結ばれている。
「あと2週間でクラス替えなんて、やだね」
「みんな文系日本史選択でしょ? もしかしたら一緒かもよ」
「でもうちら、さすがに固まるとうるさすぎるし、離されるんじゃない?」
薄っぺらくてばかみたいな会話に浸っているこの瞬間が、あたしは結構、すきだった。