密かに… そっと…
気を抜けば、そのまま空へ舞い上がってしまいそうだった。

ぎゅっと手に力を入れて、なんとか現実に引き戻しながら、休憩後の仕事をこなす。

グッと距離が縮まったお昼休み。

それだけで、今日はずっと幸せでいられる気がしていた。

――でも。

「えーっ、詩音くんコンタクトにしたのー! そっちの方がいいよー!」

店内に響いた、テンションの高い声。

白田さんだ。

夕方からシフトに入る彼女は、これから私と入れ替わりで詩音くんと一緒に働くことになる。

(……そうだよね)

(やっぱり、その反応だよね……)

胸の奥が、少しだけ重くなる。

(これから、白田さんは何を話すんだろう……)

飛んでいきそうなくらい軽かった心は、また地上へ引き戻されてしまった。

まるで足に鉛でもつけられたみたいに、重たい。

そんな感覚のまま、店の扉を開けた。

気持ちの高低差がありすぎて、思っていた以上に疲れていたみたいだ。

家に帰ると、そのままベッドへダイブする。

――気づけば、眠っていた。

目を覚ます。

(……? 明るい)

ぼんやりしたままスマホに手を伸ばし、時間を確認する。

8:23。

(8時か)

そこまで考えて、固まる。

(……8時?)

(これ、夜なら20時表示だよね?)

(えっ、朝⁈)

慌ててリビングへ降りる。

けれど、家の中は静かだった。

どうやら、みんなもう仕事へ行ったあとらしい。

(あのまま寝ちゃったんだ……)

(お母さん、起こしてよー)

誰もいないリビングに向かって、小さく文句をこぼす。

とりあえず、バイトまではまだ時間がある。

シャワーを浴びて、朝ご飯を食べると、ようやく頭も気持ちも落ち着いてきた。

空いた時間にやることなんて、もちろん一つ。

スマホゲームだ。

アプリを開くと、通知が一件表示されていた。

【詩音くんからクエストの招待が届いています】

「……えっ」

思わず声が漏れる。

通知の時間を見る。

――22:14。

もう、とっくにバイトも終わっている時間だった。

つまり。

詩音くん、帰ってから誘ってくれてたんだ。

(もしかして……)

(一緒にやろうって、思ってくれてたんだ……)

それなのに…

(何やってるのよ、私のバカー!)

思わずベッドに顔を埋めた。
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