密かに… そっと…
ランチタイムも落ち着いた十四時十五分。

「詩音くん、そっち危ないかも」

「あっ、ほんとだ。気づかなかった。ありがとう」

そんなやり取りをしながら、昨日に引き続き二人でランチ。

二人で休憩。

そして、二人でクエスト。

ティリーン♪

「あっ、やった。レベル上がった。三波さんありがとう」

「良かったね。武器の上限解放されたじゃん」

「何系の武器にしようかな……」

スマホを覗き込みながら、詩音くんが楽しそうに呟く。

ゲームを通してなら、不思議なくらい自然に話せる。

沈黙が気まずくならないし、「次どうする?」っていう会話が途切れない。

昨日より、少しだけ距離が近づいてる気がした。

そんなことを思ってしまって、口元が勝手に緩む。

「あっ、そうだ!」

ふと思い出して、私は顔を上げた。

「詩音くん、昨日ごめんね。夜にクエスト誘ってくれたよね?」

「あ、うん」

「気づいたら寝落ちしてたみたいで……」

「いや、こちらこそ。遅い時間に連絡しちゃって……」

申し訳なさそうに詩音くんが言う。

「昨日だけだよ! 普段は全然起きてる時間だから。むしろ、それくらいの時間からゲーム没入って感じだし。だから、誘ってくれたら嬉しい」

そう言った瞬間。

詩音くんが、少しだけ目を見開いた。

「あ……そっか」

その声が、なんだか嬉しそうで。

胸の奥が、じんわり熱くなる。

「じゃあ……また誘う」

「うん、ぜひ!」

思ったより自然に返事ができて、自分でも少し驚いた。

昨日までは、こんなふうに話せるなんて思ってなかったのに。

ゲームの力ってすごい。

「明日から、また部活だね」

「部活のみんなに心配かけたからな……。早く戻らないと……」

少しだけ遠くを見るみたいな顔で、詩音くんが呟く。

(そうだよね……)

この時間がずっと続けばいいのに、なんて思ってしまうけど。

詩音くんにとって一番大事なのは、やっぱりバスケなんだ。

「怪我、大したことなくて良かったね。明日からまた頑張ってね」

残念そうにしているのを悟られないように、思いっきり笑顔を作る。

「ありがとう」

そう言ったあと。

詩音くんは、少しだけ視線を逸らした。

スマホを持つ指先が、ほんの少しだけ落ち着かなく動く。

「……でも」

小さく続いた声に、思わず顔を上げる。

「三波さんとの、この休憩中のゲーム……楽しかったから。少し残念」

その言葉に。

「うっ…」

心臓が、一瞬止まった気がした。

何それ。

何それ、何それ、何それ――!!

心の中で、叫び声が大爆発する。

(詩音くん、私をキュン死させる気ですか――!?)

「よ、夜……一緒にゲームしよう」

言った瞬間、自分でも声が変に上ずったのが分かった。

「あー……っと、休憩終わるね。と、トイレ行ってきます!」

勢いのまま立ち上がる。

「え、あっ――」

詩音くんが何か言いかけていた気がしたけど、もう無理だった。

無理無理無理無理――!

好きなの、絶対バレちゃう。

顔熱いし、声変だったし、たぶん今めちゃくちゃ挙動不審だった。

私は誤魔化すように、その場から逃げ出した。
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