密かに… そっと…
残りの夏休みは、あっという間に終わっていった。

家とバイトの往復しかなかったけれど、こんなに幸せな夏休みは今までになかった気がする。

新学期。

「風香ー!会いたかったよー!」

友達が両手を広げて飛びついてきた。

「会いたいなら会いにくれば良かったじゃん。私、バイト先にいるんだから」

「えーっ、うちからだと遠いし。それに外、暑いんだもーん」

(薄情者め)

どうやら私への愛情は、この夏の暑さには勝てなかったらしい。

「さてさて、風香さん。例のバイトの想い人とは、その後進展はありましたかな」

友達が怪しいリポーターのような口ぶりで覗き込んでくる。

(……ほんと、そういうのどこで覚えるの)

少し引きつつも、素直に答えた。

「はい。少しだけ」

その返事に、友達は目を丸くする。

「えっ?うそ、マジ?」
 
想定外だったらしく、友達の声が一気に大きくなる。

「ちょっと、うるさいよ」

「ごめん、ごめん」

両手を合わせて謝りながらも、その目は明らかに“続き”を求めていた。

はぁ……。

小さくため息をつく。

「実は、ゲーム仲間になれました」

「ん?」

友達の頭の上に、はっきりと「?」が浮かんだ気がした。

「それで?」

「それだけ……」

ズコー。

友達は昔の芸人のように、派手にずっこけた。

(……歳いくつよ)

「要するに、バイト仲間からの脱出はまだ先ということですね」

(私にしたらかなりの進展なんだけどな……)

こうして二学期が始まった。

始業式だけの日はあっという間に終わり、そのまま友達とファストフード店でお昼を食べた。

ポテトを頬張りながら、夏休みに何をしていたかを話す。と言っても、私は変わり映えのない毎日だったので、ほとんど聞き役だったけれど。

「あっ、そうそう。今日ね、なんだか一年生がソワソワしてたのよ。で、手に入れた情報があります」

「何それ、私全然気づかなかったけど」

チッチッチ、と友達は人差し指を振った。

「アンテナは常に高く!そうしないと時代に乗り遅れちゃうよ」

(いや、学校の情報を手に入れたくらいでそこまで……)

「どうやらね、夏休みの間にイケメンになった男子がいるらしいよ」

ぶっ。

私は飲んでいたサイダーを吹き出した。

「ちょっと汚いなぁ」

友達が顔をしかめるけれど、それどころではない。

「だ、誰って聞いた?」

「いや、名前は聞かなかったけど……。何?風香、何でそんなに必死なの?」

「あっ、いや、別に……」

嫌な予感しかしなかった。

(夏休みの間に身長が伸びて、コンタクトにして……)

詩音くんの姿が頭に浮かぶ。

もしかして……。
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