密かに… そっと…
その日のバイト終わり、店長がカウンターから出てきた。

「風香ちゃん、急で申し訳ないんだけど、明日の昼間、バイトに来れないかな? 朱美さんが今日、熱っぽいって言ってたから休んでもらいたいんだ」

(明日……)

頭の中で予定を確認する。

(塾の自習室に行こうと思ってただけだし……)

「明日、大丈夫ですよ」

「良かった。それじゃあ、また明日よろしくね」

「はい。お疲れ様でした」

私は店長にぺこりと頭を下げた。

最後に、詩音くんのいるキッチンへちらりと目を向ける。

すると、ちょうど詩音くんもこちらを見ていて、視線がぶつかった。

ドキッ。

今度は、不安で苦しくなるような鼓動じゃない。

胸の奥がふわっと温かくなるような、心地いい鼓動だった。

お互いに小さく頭を下げる。

そして、ほんの少しだけ笑い合った。

それだけ。

たったそれだけのことなのに、胸がいっぱいになる。

――こんな時間が、私の小さな幸せだった。

それでいい。

今は、そう思えた。
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