密かに… そっと…
「詩音くんもこれからバイトなの?」

もうすぐ休憩も終わる頃だった。

ちょうどゲームもクリアしたところで、私はスマホから詩音くんへ視線を移した。

「いや、今日は……。課題も終わってなくて……」

どこか歯切れの悪い言い方が、少し気になった。

「そっか。もう冬休みも終わっちゃうもんね」

そう言って、私は残りのバイトに戻った。

(なんだろう……。なんだかモヤモヤする)

(家じゃなくて、ここで課題をするってことだよね……)

ふと、昨日、白田さんが詩音くんに勉強を教えてもらっていたことが頭をよぎった。

(今日も……?)

(でも、今日は白田さんバイトだし)

考えすぎだと思うようにして、そのまま仕事に意識を戻した。

チリンチリーン

「いらっしゃいませー」

ドアの方へ顔を向けると、

「お疲れ様でーす」

今日は髪をくるくるに巻いて、いつもより少し可愛さが増した白田さんが立っていた。

バイトの時間までは、まだあと一時間はある。

「おや、瑠奈ちゃん。今日は早いね?」

店長が声をかけると、

「そうなんですよー。今日、詩音くんと課題を一緒にやるんですー」

そう言った。

(えっ……?)

悪い予感は的中してしまい、私は危うく持っていたトレイを落としそうになったが、なんとか持ちこたえた。

机の上の食器やグラスをトレイに乗せ直し、端へ寄せてテーブルを拭く。

ガタガタ……

無意識に力が入りすぎていたのか、食器が大きな音を立てた。

はっ、と我に返る。

(落ち着け、落ち着け……)

それでも、休憩室の中に二人がいると思うと、胸の奥がぎゅっと掴まれたように痛んだ。視界まで少しにじむ。

(なんだろう……。勝手に、涙が……)

私は彼女でもない。

詩音くんが誰と何をしようと、私には関係ないはずだ。

それなのに。

さっきまで一緒にゲームをして笑っていたのに、と思うと、どうしようもなく悲しくなった。

十六時半を過ぎた頃から客足は落ち着き、お店には、お客さんがいなくなっていた。

「風香ちゃん、今日は急にシフト入ってもらっちゃったし、お客もいないから、もう上がっていいよ」

そう店長が声をかけてくれた。

「わかりましたー。それじゃぁ、上がりますね」

私はそう答えると、休憩室に向かう。

休憩室のドアをノックしようと手を握る。

(どうしよう…。なんだか怖い…)

なかなかドアを叩くことができない。

すぅ…。はぁ…。

大きく深呼吸をして、

コンコン…

ノックをした。

「はーい」

と可愛い声。

恐る恐るドアを開けると、机の上にはノートや教科書、プリントが広げられていた。

(良かった…。本当に課題をやってたんだ)

「お疲れ様でーす、風香さん。もうアガリですか?」

「うん。今、お客さんいないから終わっていいって」

「そうなんですね」

白田さんはにっこりと微笑んでくれる。

そんな白田さんはスマホを手にしていた。

「あっ、そうだ、風香さんも見てくださいよー」

そう言って白田さんは私にスマホの画面を近づけた。

「えっ?なぁに?」

私はその画面を覗くと、写真が映し出されていた。

(えっ?)

そこには、四人の男女が楽しそうにポーズを取っている。

「この前詩音くんと、お互いの友達の四人で初詣に行ってきたんですよー」

(!)

「ちょうど今、詩音くんに写真送るねって開いたところだったんです」

(写真を送る?って連絡先交換してるってこと?)

ガタンッ!

急に詩音くんが立ち上がった。

私は錆びついたロボットのように、ギギギ…と首を詩音くんに向けた。

バチッ

詩音くんもこちらを見ていた。

「違う!風香ちゃん!」

「「えっ?」」

私と白田さんの声が重なった。

詩音くんは、しまった!というような顔をして、慌てて右手で口を押さえた。
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