元カレは、今も私をミケと呼ぶ
スーツを着ている彼は、私に向かって大きく手を振った。

「やっぱりミケだ! 久しぶり!」

大学時代に付き合って、卒業前に別れた――陽太。

私の本当の名前は実花(みか)なんだけど。

彼だけが“ミケ”と呼ぶ。

人見知りの、実家の三毛猫によく似ているからだって。
『俺だけに懐く尊い存在』と言うから。
当時の私は、そのあだ名をなんだかんだ気に入っていた。


陽太が、人懐っこそうな瞳で私を見つめている。

よく日に焼けた肌も、クセのある柔らかい茶色の髪も。
周りを明るくするような満面の笑みも。
驚くほど、あの頃のままで何も変わらない。

違うのは、派手なオレンジ色のパーカー姿から、
落ち着いた色のスーツ姿になったこと。
元々スポーツをしていた人だけど、さらに引き締まって姿勢がよくなったように見える。
袖口から覗く腕時計が、私の知らない大人の陽太になっていた。

「あ……」

あとひとつ、変わっていないところを見つけた。

彼のネクタイが、やっぱりオレンジ色だというところ。

懐かしさが込み上げてきて、思わず小さく吹き出してしまった。

人の流れに押されそうになると、陽太が庇うようにスッと立ち位置を変える。
大きな手を伸ばして、私を離れた場所へと誘導してくれる。

触れそうなのに、触れなくて。

遠慮しているのが分かって、もどかしさが胸に落ちていく。
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