冷徹御曹司との運命の再会 〜隠していた双子ごと愛されました〜
1小料理屋のお客
「派遣さーん、共有フォルダにあるデータのまとめお願い出来る? 昨日やってもらった計算と同じだから」
「わ、分かりました」
「定時までに終わりそう?」
「大丈夫、です……」
「助かる! 今月は派遣さんに残業させないでって言われてるんだよねー。じゃあよろしく」

 派遣さんと呼ばれた竹中千恵(たけなか ちさと)は、目の前のデータを見てため息をついた。

(もうこの会社で働き始めて半年は経つのに名前すら呼んでもらえないのね。自業自得だけど)

 慣れた様子で計算ソフトに数値を打ち込んでいく。定時までに終わるか微妙な量だ。

(余計なこと考えてたら終わらない。やらなきゃ!)

 千恵はタイピングする手に力を込めた。


 幼い頃に両親を交通事故で亡くした千恵は、高校を卒業してすぐに働き始めた。けれど最初に就職した町工場ではうまく馴染めず、先輩社員の嫌がらせもあり、辞めざるをえなかった。
 その後は派遣社員として働く日々。気がつけば社会に出て六年が経過し二十四歳になっていた。

(このままじゃ駄目だって分かってるけど……)

 ただ、最初の町工場で従業員が怒鳴り合うのを聞いて以来、千恵にとって『上司』や『先輩』という存在が恐ろしかった。
 どんなに優しくされても、ビクビクしてしまい、結果的に皆から距離を置かれてしまうのだ。

(長く勤めたいけど、どこで働いても居心地の悪さは消えないな)


 ここマゼリア製薬は、千恵にしては長く続いている。
 社員は皆親切だし、怒鳴るような人ももちろんいない。けれど大勢の人と働いていると、どうしても息ぐるしく、自分の殻に閉じこもってしまうのだった。

「デ、データ整理、終わりました。共有フォルダに入れておきましたので」
「お、早いね。ありがとう」
「いえ……あの、定時ですので失礼します」
「お疲れー」

 先輩にぺこりと頭を下げると、足早に会社を後にする。

(やっと終わったー!)

 会社の外に出ると、爽やかな空気が千恵を満たす。軽い足取りで最寄りの駅へと向かう。
 けれど千恵が向かうのは家ではなかった。


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