冷徹御曹司との運命の再会 〜隠していた双子ごと愛されました〜
 到着したのは細い路地裏にある小料理屋だ。細筆で書かれた『まごころ』という看板が控えめに立てられている古い店だ。
 千恵は迷いなく裏口から入ると、そこにいた女性に声をかけた。

「お疲れ様です、明美さん」

 明美はこの小料理屋の女将で、千恵はここでアルバイトをしているのだ。
 明美は千恵の声に顔を上げ、柔らかく微笑んだ。

「あらー、千恵ちゃん今日は早いのね。それになんだか嬉しそう」
「残業がなかったので! あ、入り口前の掃除をしておきますね」
「はーい、お願いね」

 箒と塵取りをもって店の入り口の落ち葉やゴミを掃除していく。
 ふと顔を上げると、夕日がビル街に沈んでいくのが見えた。

(ここで働くのは息苦しくない。明美さんと二人だからかな……)

 確かめるように深呼吸をすると、ちょうど店の明かりが灯る。
 その暖かい橙色の明かりを見ていると、明美と出会った頃が思い出された。


 千恵がここで働き始めたのは、偶然だった。
 派遣の仕事に馴染めず、ぼんやりと路地を彷徨っていた時に小料理屋の前で『アルバイト募集』の紙を貼っている着物の女性と目が合ったのだ。

『まぁっ、ちょっと貴女、そんな顔してたら美人が台無しよ』

 そう言って着物の懐から懐紙を出して渡してくれたのが、女将の明美だった。
 明美は呆然としている千恵の涙をふいて、開店前の店に招き入れてくれた。

『身体を温かくすると、気分も上がるのよ』

 そうして差し出されたお茶が千恵の心を緩ませてくれる。こちらを見つめている明美の姿が、もうおぼろげな母の姿と重なった。

(あったかい……)


 明美のおかげで元気を取り戻した千恵は「ここで働かせてください」と頭を下げたのだ。

『あなたOLさんでしょう? こんなところで働かなくても……』

 明美は最初驚いていたが、「軽く面接でもしましょうか」と言ってくれた。
 その中で千恵の生い立ちを聞き、目頭を真っ赤にしながら雇うことを決めてくれたのだ。

『明美って呼んでちょうだい。それで、今日からお願いできるかしら?』
『はいっ!』


 そうして働き始めて半年。
 最近は掃除や皿洗いだけではなく、野菜の下処理といった仕込みも任されるようになった。

「そろそろ開店準備も手伝わなきゃ」

 千恵は手際良く掃除道具を片づけると、調理場へと急いだ。


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