冷徹御曹司との運命の再会 〜隠していた双子ごと愛されました〜
 日本に帰国した篤史がまず向かったのは小料理屋まごころだった。
 まだ開店前の夕暮れ時、篤史は迷いなく店の扉を開けた。

「お客さん、まだ開店前……」

 言いかけた明美の顔がみるみる強張っていく。

「何しに来たのかしら?」

 明美の声がひどく冷えきっていた。

「千恵と連絡が取れないんだ。何か知らないか?」
「何か知らないかですって? そんなことを言うとは思わなかったわ」
「どういう意味だ?」

 篤史の問いかけに明美の表情がどんどん鋭くなる。

「分からないの? 緑川さんが政略結婚するから身を引いたに決まってるでしょ!」
「は……?」

 明美の言葉に篤史の身体が強張った。

(何故千恵が結婚のことを……そもそもすぐに破棄した話だというのに)

「誤解がある。俺は結婚していない。千恵と話をさせてくれ」
「誤解って……千恵ちゃんがどれだけ苦しんだと思ってるの!」
「俺が直接結婚したと言っていたのか?」

 篤史が訴えると明美の表情が揺らいだ。彼女は篤史に背を向け、そのまま黙り込んでしまった。

「頼む、千恵の居場所を教えてくれ」

 明美は答えず黙っていたが、小さく肩を震わせていた。そのうちぽつりと「出来ないわ」と呟いた。

「確かに緑川さんと千恵ちゃんの間ですれ違いがあったのかもしれない。でも、貴方のお家の問題に巻き込まれたのは確かでしょ。それにね……千恵ちゃんはもうこの地を離れて静かに暮らすことを選んだの。そっとしておいてあげて。もう、苦しませないで。私は千恵ちゃんのあんな姿、二度とみたくないの」

 いつも気丈な明美の声が消えてしまいそうなほど小さく、震えていた。

「……分かった」

 篤史はそれだけ言うと店を出た。どうしようもない、無力感が篤史を覆っていた。
 ふらふらと実家に戻ると、壮一郎が待ち構えていた。

「ようやく帰ってきたか。どうだ諦めはついたか?」
「あなたが仕組んだのですか?」

 篤史が睨みつけると、壮一郎は満足そうににやりと口角を上げた。

「さあな。だがいなくなった薄情な女のことなど考えるだけ無駄だろう。今は会社のことだけを考えろ。わが社はお前の婚約破棄のせいで窮地に立たされているんだからな」
「あなたはっ……!」
「仕事をしろ篤史。遊ぶために日本に帰ってきた訳ではないだろう?」

 篤史は拳をきつく握りしめた。その時、指輪がキラリと光るのが目の端で見えた。
 一度深呼吸をして壮一郎を見つめる。

「社長、俺が不採算事業を立て直します。そしてあなたを社長の座から引きずり落とします」

 それだけ宣言すると、篤史は家に入ることなく踵を返した。

(千恵、どうか幸せになってくれ。勝手な男ですまない)

 指輪をするりと撫でると、しっかりとした足取りで会社へと向かうのだった。
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