冷徹御曹司との運命の再会 〜隠していた双子ごと愛されました〜
***
「あつしさん、いってらっしゃーい」
「いってらっしゃい! おしごとがんばれー!」
千恵にプロポーズをした翌日、篤史はいつもとは違う挨拶に背中を押されてゲストハウスひだまりを後にした。
(こんな風に見送られるのは初めてだ。最高の気分だな)
ひだまりを出る直前、千恵に握られた手がまだ熱を持っている。 互いの薬指に嵌めた指輪が、今は誇らしげに輝いていた。
『帰りをまっていますから』
笑顔で告げた彼女は、昨日までのどこか不安げな表情が消え、明るく笑っていた。
(さっさと仕事を終わらせるか)
篤史が抱えていた新ブランドの立ち上げも、いよいよ大詰めだ。目玉となる新しい自動車は、もう出来上がっている。後は広報戦略が上手くいくか見守るだけだ。
(お披露目用の記者会見の準備も順調に進んでいるが、今のうちに広報が上げてきていた資料を再確認しておくか)
時間があるうちに進めておかなければ、いざという時に休日が潰されてしまう。
気合いを入れ直して出社すると、休日だというのに八乙女が来ていた。
「また軽井沢ですか?」
開口一番、責めるような口調だ。篤史は八乙女を睨みつけた。
「八乙女、竹中千恵はどうだった?」
冷たい言葉に八乙女がびくりと肩を震わせる。篤史は構わずたたみかけた。
「随分と彼女に執心のようだが、会ってみた感想は?」
「ど、どうしてそれを……! あの女が泣きついたのですか? 私はただ、もう会わないでほしくて」
すると篤史は納得したように「本当に会ったのか」と呟いた。八乙女はハッとした表情で後ずさる。
「騙したんですか!?」
「鎌をかけただけだ。彼女の様子がおかしかったから、もしやと思っていたんだ。父が一人で軽井沢に行けるとは思えないし……そうなると怪しいのは君だった」
千恵と再会した時に感じた八乙女への不信感。
思い返せば、千恵が失踪した時から八乙女には違和感があった。
傷心して様子のおかしかった篤史に対して驚くことなく対処していたのだ。なにも事情を話していないはずなのに、なにもかも知っているような気配を薄々感じていた。
そして最近、篤史に対しプライベートに土足で踏み込んでくる彼女に、疑念を強めていた。
父が新たな婚約者に八乙女を推すのも、彼女が全てを知っていて扱いやすいからなのだろう。
(だが、証拠はない。ならばこちらから仕掛けて尻尾を出させるまでだ)
篤史は慌てふためく八乙女を見下ろしながら、自分の推測が間違っていなかったと確信した。
「やはり君が関与していたんだな」
「っ! ち、違うんです。社長が仕事を疎かにするのが怖くてっ。秘書として止めなければと思ったのです」
「八乙女、君は確かに仕事熱心だ。長年そこを買っていたんだ。だが、俺のプライベートを荒らすなら別のポジションを用意する必要がありそうだ」
篤史が低く落ち着いた声で伝えると、八乙女はうつむいた。
「出すぎた真似をしました……失礼します」
青ざめた顔で蚊の鳴くような声でそれだけ告げると、八乙女は退室していった。
(やはり千恵は八乙女に会っていたんだな)
千恵がひどく青ざめた顔で『迷惑なんです! も、もう来ないでくださいっ』と言われた衝撃は、今でも鮮明に思い出せる。地獄に突き落とされた様な気分だった。けれど、それで千恵に失望した訳ではない。
(千恵が理由もなく突き放すことを言うはずがない)
自分の中の千恵への信頼がそう告げていた。
だからこそ、言い返さずクールタイムを取ろうとその場を離れたのだから。
「千恵にあんな顔をさせるなんて……。もう少し八乙女に強く警告すべきだったな」
篤史は八乙女の処遇を考えつつ、広報の資料をチェックし始めた。八乙女のことばかりを気にしている場合ではないのだから。
(エントリーモデルで取り込んだ消費者は、若い男性がメイン。顧客をさらに広げるために、今回の方向性は間違っていないはずだ)
新ブランド立ち上げを決めたのは、電気自動車路線を打ちきり、ハイブリッドに舵を切ったと消費者に知らせる手段でもあるが、もう一つ別の大きな狙いがあった。
「ようやくここまで来た。あと少しだ」
篤史は自分を鼓舞するように呟くと、広報の計画案にチェックを入れていった。
「あつしさん、いってらっしゃーい」
「いってらっしゃい! おしごとがんばれー!」
千恵にプロポーズをした翌日、篤史はいつもとは違う挨拶に背中を押されてゲストハウスひだまりを後にした。
(こんな風に見送られるのは初めてだ。最高の気分だな)
ひだまりを出る直前、千恵に握られた手がまだ熱を持っている。 互いの薬指に嵌めた指輪が、今は誇らしげに輝いていた。
『帰りをまっていますから』
笑顔で告げた彼女は、昨日までのどこか不安げな表情が消え、明るく笑っていた。
(さっさと仕事を終わらせるか)
篤史が抱えていた新ブランドの立ち上げも、いよいよ大詰めだ。目玉となる新しい自動車は、もう出来上がっている。後は広報戦略が上手くいくか見守るだけだ。
(お披露目用の記者会見の準備も順調に進んでいるが、今のうちに広報が上げてきていた資料を再確認しておくか)
時間があるうちに進めておかなければ、いざという時に休日が潰されてしまう。
気合いを入れ直して出社すると、休日だというのに八乙女が来ていた。
「また軽井沢ですか?」
開口一番、責めるような口調だ。篤史は八乙女を睨みつけた。
「八乙女、竹中千恵はどうだった?」
冷たい言葉に八乙女がびくりと肩を震わせる。篤史は構わずたたみかけた。
「随分と彼女に執心のようだが、会ってみた感想は?」
「ど、どうしてそれを……! あの女が泣きついたのですか? 私はただ、もう会わないでほしくて」
すると篤史は納得したように「本当に会ったのか」と呟いた。八乙女はハッとした表情で後ずさる。
「騙したんですか!?」
「鎌をかけただけだ。彼女の様子がおかしかったから、もしやと思っていたんだ。父が一人で軽井沢に行けるとは思えないし……そうなると怪しいのは君だった」
千恵と再会した時に感じた八乙女への不信感。
思い返せば、千恵が失踪した時から八乙女には違和感があった。
傷心して様子のおかしかった篤史に対して驚くことなく対処していたのだ。なにも事情を話していないはずなのに、なにもかも知っているような気配を薄々感じていた。
そして最近、篤史に対しプライベートに土足で踏み込んでくる彼女に、疑念を強めていた。
父が新たな婚約者に八乙女を推すのも、彼女が全てを知っていて扱いやすいからなのだろう。
(だが、証拠はない。ならばこちらから仕掛けて尻尾を出させるまでだ)
篤史は慌てふためく八乙女を見下ろしながら、自分の推測が間違っていなかったと確信した。
「やはり君が関与していたんだな」
「っ! ち、違うんです。社長が仕事を疎かにするのが怖くてっ。秘書として止めなければと思ったのです」
「八乙女、君は確かに仕事熱心だ。長年そこを買っていたんだ。だが、俺のプライベートを荒らすなら別のポジションを用意する必要がありそうだ」
篤史が低く落ち着いた声で伝えると、八乙女はうつむいた。
「出すぎた真似をしました……失礼します」
青ざめた顔で蚊の鳴くような声でそれだけ告げると、八乙女は退室していった。
(やはり千恵は八乙女に会っていたんだな)
千恵がひどく青ざめた顔で『迷惑なんです! も、もう来ないでくださいっ』と言われた衝撃は、今でも鮮明に思い出せる。地獄に突き落とされた様な気分だった。けれど、それで千恵に失望した訳ではない。
(千恵が理由もなく突き放すことを言うはずがない)
自分の中の千恵への信頼がそう告げていた。
だからこそ、言い返さずクールタイムを取ろうとその場を離れたのだから。
「千恵にあんな顔をさせるなんて……。もう少し八乙女に強く警告すべきだったな」
篤史は八乙女の処遇を考えつつ、広報の資料をチェックし始めた。八乙女のことばかりを気にしている場合ではないのだから。
(エントリーモデルで取り込んだ消費者は、若い男性がメイン。顧客をさらに広げるために、今回の方向性は間違っていないはずだ)
新ブランド立ち上げを決めたのは、電気自動車路線を打ちきり、ハイブリッドに舵を切ったと消費者に知らせる手段でもあるが、もう一つ別の大きな狙いがあった。
「ようやくここまで来た。あと少しだ」
篤史は自分を鼓舞するように呟くと、広報の計画案にチェックを入れていった。