冷徹御曹司との運命の再会 〜隠していた双子ごと愛されました〜
 その後、千恵と籍を入れた後も、篤史は東京で忙しく働いていた。
 しかし今日は特別だ。ついに新ブランド立ち上げの記者会見が行われるのだから。

 生中継をしてくれるテレビ局があったので千恵に連絡すると、彼女は『三人で観ます!』と言ってきたのだ。
 だからという訳ではないが、篤史はいつも以上に気合いが入っていた。

 今日はホールを貸しきっての記者会見。広い会議室に入ると、大手マスコミ関係者が期待に満ちた目をしてこちらに注目している。
 司会に話を振られ、篤史は小さく息を吸った。

「本日、皆様には新ブランド『アミティ』のご紹介をさせてください。これまでの弊社は『ミライを創る』『憧れのその先へ』として最先端の技術を詰め込んだ最高級のおもてなしを提案してきました。おかげさまで多くのお客様に支持をいただいております。一方で、より身近な価格帯のエントリーモデルが予想を上回る大きな反響を呼んだことで、一つの大切なことに気づかされました」

 篤史の言葉に連動して後ろのスクリーンが変化する。ビル街を走り抜ける高級感溢れる車から、庭で家族が笑いながら車を囲む映像へと切り替わった。

「それは『最高級の技術こそ、守るべき日常の風景に注がれるべきだ』ということです。これまでに弊社が培った圧倒的な安全性や静粛性。これらを毎日を懸命に走り続ける皆様の『慌ただしくも愛おしい時間』にお届けしたい。その想いから新ブランド『アミティ』を立ち上げました。手の届きやすい価格帯でありながら、中身は一切妥協しない。皆様に愛されるブランドになると確信しています」

 そこで口を閉じると、会場の角にスポットライトが当たる。そこにはベールに覆われた車が置かれていた。
 司会が「それではアミティがおくる記念すべき第一弾モデルをお披露目いたします!」と告げると、ベールが脱がされ、パステルグリーンのコンパクトカーが現れた。

 一斉にカメラのシャッターが切られる。

「ママの毎日に寄り添う相棒。ハイブリッド・マザーズカー『ルティナ』です!」

 司会の言葉と共に、篤史はマイクを持ってルティナに近づく。

「それではルティナが提案する『ママのための標準装備』を二つご紹介します。これまでに培ったセンサー技術と機構設計を、日常の困り事を解決するために転用したものです」

 篤史はポケットからカメラのモデルを取りだして掲げる。

「後部座席に座るお子様の様子を運転席からひと目で確認できる『見守りディスプレイ』です。運転中、後ろで赤ちゃんが泣き出したり、静かすぎると、どうしても気になって振り返りたくなりますよね。しかしそれは安全運転の妨げになります。ルティナは、この高精度の専用カメラが後部座席を捉え、ディスプレイに映し出します。それによって運転と子供の安全を守ります」

 後ろのスクリーンではデモ映像が流れている。けれど、記者たちは集中してこちらに耳を傾けている。
 篤史は「そしてもう一つ」と続けた。

「雨の日の送迎を支える『アンブレラ・ルーフ』です」

 その言葉とともに後部座席のスライドドアが開く。すると車体上部から屋根がせり出してきた。

「雨の中、傘を差しながら子供を乗り降りさせるのは困難です。チャイルドシートに乗せている間にずぶ濡れになってしまう。そんなお悩みを解決します。ルティナはこれらを標準装備しています」

 どこからか小さく感嘆の声が上がる。
 篤史は新ブランドが受け入れられそうだと内心安堵していた。

(どこかで結婚しているかもしれない千恵を思い浮かべて新ブランドを立ち上げた時には、自暴自棄になりすぎたと反省していたが、良かったのかもしれないな)

 アミティの立ち上げを思い付いたのは、千恵がきっかけだった。千恵が見知らぬ男の子供を抱いているところを想像すると吐き気がするほど気落ちしたが、コンセプトとしては優秀だった。
 千恵と再会し、湊斗や紬と触れ合ってからは、よりコンセプトが明確になり、宣伝の方向が明確化したのだ。 

『忙しい母親の困り事を解消する』

 そうして第一弾のルティナに繋がった。
 第一弾がハイブリッドカーであることも、ミドリカワの今後の注力先であることの証明になったはずだ。


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