一夜のあと、君に溺れる
「おーい、夕飯できたよ」

大ちゃんに呼ばれてダイニングへ行くと、テーブルには大皿料理がたくさん並ぶ。短時間でこんなにも作れるなんて、杏子さんの言う通り、大ちゃんはやっぱりお料理上手だ。

「さーちゃん、ここ座って」

言われるがまま座ると、大ちゃんが取り皿におかずを少しずつ取ってくれる。あまりにも甲斐甲斐しいので、嬉しいよりもちょっぴり恥ずかしい。私、何もやらない彼女みたいじゃない……。なんて思っていると、ご両親のニヤニヤが止まらなくなっていた。

「桜子ちゃん、愛されてるわねぇ」

「えっ、愛?!」

「あー、羨ましい」

お母さんがお父さんを見て「はー」と大きなため息をつくので、お父さんは飲んでいたお茶をゴフッと吹いた。

「お、俺だって、まだまだ君のことを愛してますよ」

「桜子ちゃん、こうやって尻に敷くのよ」

「母さん、さーちゃんに変なことを吹き込まないで」

「あー、やれやれ。ありがたい話も聞けたし、いただこうかね」

「ばーさん、俺も愛しているよ」

「当たり前だよ。夫婦なら一生愛し続けなさいな」

あっはっはっと、明るい笑い声がダイニングに響く。そんなご家族に対して、大ちゃんはちょっぴり恥ずかしそうな困った顔をしていたけれど、私だって言いたい。

「あの。私も、大ちゃんのこと愛してます!」

この気持ちは誰にも負けないというつもりで言ったのだけど、急にしんとなる宮越家。そして、みんなの視線が一斉に私へ。そして大ちゃんへ移っていく。その流れに引き寄せられるように、私も大ちゃんを見た。

全員に注目された大ちゃんは、至極真面目な顔で私を見つめる。胸の奥で、心臓がドキッと跳ねた。

「愛してるよ、さーちゃん」

「えっ、えっと……」

あまりにも真っ直ぐで曇りのない言葉は、私の胸を容易く射抜いた。私から愛していると主張したはずなのに、今はただ、どうしようもなく嬉しくて恥ずかしい。顔に熱が集まるのがわかった。

「なんかお母さん、お腹いっぱいになってきた」

「青春だねぇ、うんうん」

「赤飯でも炊いたらどうかね?」

「明日の(まかな)いは、赤飯にでもするか」

「もういいから、冷める前に夕飯食べない?」

次々に飛び出す家族の言葉に、思わず笑いがこみ上げる。照れくささと嬉しさが入り混じって、私の胸の奥はぽかぽかとあたたかくなった。宮越家にいると、まるで春の陽だまりの暖かさを感じる。

それはとても心穏やかで、こんな幸せな時間をくれることに、改めて感謝の気持ちでいっぱいになった。
< 103 / 104 >

この作品をシェア

pagetop