一夜のあと、君に溺れる
11.ご挨拶とこだわり
宮越家にはもう何度もお邪魔している。だけど今日は妙な緊張感に包まれていた。

「そんなに緊張しなくても」

「そうなんだけど、やっぱり緊張する」

だって大ちゃんとお付き合いしていますって伝えるんだもの。いつも杏子さんたちと「お邪魔しま~す」なんて気楽に来るのとは理由(わけ)が違う。

宮越家は料亭宮こしの裏手にあって、料亭の敷地の大きさに隠れているだけでかなりの豪邸だと思う。昔ながらの日本家屋だけれど趣があって、どこか懐かしく心安らぐ魅力がある。

「こんにちは。お邪魔しま――」

「桜子ちゃん、いらっしゃい」

「よく来たね、上がって上がって」

「あ、はい、お邪魔しま――」

「大ちゃんの彼女がまさか桜子ちゃんだなんてねぇ」

「いや、たまげたなぁ」

大ちゃんのご両親が捲し立てるようにしゃべるので、ご挨拶したいのにできない。困って大ちゃんを見ると「無視して上がって」と苦笑いしていた。

居間に入ると、お祖父様とお祖母様もニコニコしながら「いらっしゃーい」と迎えてくださった。

「こんにちは。お邪魔します」

丁寧にご挨拶をすると、座りなさいと促され、大ちゃんと並んで座った。背筋がシャンと伸びる。

「改めまして、お付き合いしている御堂桜子さんです」

「御堂桜子です。よろしくお願いします」

「いいよいいよ、気楽にねぇ」

「桜子ちゃんはいつ見ても別嬪さんよね」

「ありがとうございます」

「それで俺たち、一緒に住もうと思ってる」

大ちゃんがそう言うと、一瞬居間がしーんとなった。緊張でごくっと息を飲み込む。もしかして結婚前に同棲は反対なのかと思ったのに――。

「まー、大ちゃんったら、おませさん」

「若いっていいねぇ」

「桜子ちゃんと住むってことは、帰ったら桜子ちゃんがいるってことで、大福くん、なんて贅沢なんだ」

「ちょっとお父さん、何羨ましがってるんですか」

「俺も羨ましい」

「おじいさん、黙りなさい」

自由な宮越家に、思わず笑いが込み上げてくる。くすっと笑うと、「もー、ほんと変な家族でごめん」と大ちゃんが困った顔をしていた。

でも私は、宮越家の温かさに触れられて嬉しい。胸のあたりがぽかぽかするもの。
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