一夜のあと、君に溺れる
ブオンッ!

突然大きな音と共に、ヘッドライトの眩しい光が空間を裂くように差し込む。眩しさに目が眩んだのか、高崎の動きが止まった。

「大ちゃん!」

勢いよく車から降りてきたのは姉で、ものすごい形相でこちらに駆けてくる。運転席からは、姉の旦那さんである一真さんが降りてくる。

「大福くん、大丈夫かい?」

「はい、桜子をお願いできますか?」

俺はさーちゃんを一真さんに託し、立ち上がる。その瞬間、猪突猛進な姉が叫んだ。

「うおりゃー! 悪霊退散ー!」

手にしていたのは、まさかの塩の袋。姉は袋に手を入れ、塩をむんずと掴むと、高崎に向かって豪快に撒き散らした。

「うわっ」

高崎が怯んだ隙に、俺は地面を蹴って一気に距離を詰める。そして、思い切り胸ぐらを掴んで足を引っかけ、重心の崩れた高崎を一思いに投げ飛ばした。高崎の体は軽々と宙を舞い、あっけなく地面に転がる。

「一本、それまで!」

姉が右手を突き上げ、高らかに叫ぶ。高崎は何が起こったのか理解できていないようで、目を見開いたまま呆けた顔をしていた。

追い打ちをかけるように、姉が高崎の顔に向けて塩を蒔く。悪霊退散、悪霊退散と呟き、容赦がない。いつの間にか高崎は、俺に投げ飛ばされた状態のまま、塩で溺れそうになっていた。

「一真さん、桜子は?」

「ああ、眠っているだけのようだけど、念のため病院へ連れて行こう」

「はい、ありがとうございます。姉ちゃんも、来てくれてありがとう」

「うん、急に仕事ヘルプが入ったと思ったら、おばあちゃんに塩を渡されてさ。いやー、役に立ってよかったよ」

明るく笑う姉を見て、俺はようやく肩の力を抜く。ずいぶんと強張っていたみたいだ。尻の下では、逃げないようにと俺に踏みつけられている高崎が、「……何なんだ、君たちは」と顔をしかめている。

「何って、桜子の彼氏だけど?」

至極当然の回答をした俺を、高崎は理解がおいつかないのか、口をパクパクさせる。どうやら何も言葉が思いつかないようだった。

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