私は優秀なストーカーから逃げられない
嫌がらせ

「さ、帰ろっか。」

そして、電車の中でまた奏は私を抱きしめた。

家の前まで来ると奏はピタリと止まった。

「買うの忘れた物があるから、先入ってて?」

そう言うと笑顔で手を振られた。

いつもなら玄関で襲われるのに…。

不思議に思いつつドアを閉めた。

その日は、何故か影山さんは家に来なかった。

朝、家を出ると、影山さんが立っていた。

「おはよう。」

「おはようございます。」

手を差し出され手を出すと指を絡ませた。

少し前に戻ったみたい。

電車の中で抱き合いは、するもののキスはしてこなかった。

そして、その日から影山さんは、帰りも送ってはくれるが、家には入って来なかった。

身体…疼く…。

前にはこんなのなかった…。

私は恐る恐る突起を触ってみた。

乳首も触ってみるも影山さんから与えられるような快感は得られなかった。

触って欲しい…。中を突いて欲しい…。

いつからこんなふうになっちゃったんだろう…。

私は火照った身体をどうする事も出来ず悶々とした日々を過ごした。

しばらくして出社すると、更衣室の扉に貼り紙が貼られていた。

『キモい』『泥棒』『ブス』『影山に近づくな』

一瞬でピンと来た。

恐れていた事…。

影山さんは皆のアイドル。

優しさに甘えていたけど、一緒にいたら妬まれる事くらいわかってたのに…。

私は貼り紙を捨ててフロアへ行くとパソコンにも写真が置いてあった。

イジメが始まるかも…。

嫌な予感がする。

思った通り、社内の噂の的になり、冷たい視線や睨まれたりヒソヒソ言われたりと針の筵のようだった。

営業事務の子に仕事を頼んでもしてくれず、困り果てているとおばちゃん事務員さんが帰ってきて処理をしてくれた。

やっと仕事が終わり、家に着くと、家のドアにも会社と同じ様な貼り紙がしてあった。


私はその貼り紙を剥がして家に入った。

もう何なのよ!

って私が悪いか…。わかってたのに…。

部署異動届出そう…。

前の所に戻れるかな…。

私は影山さんから離れて距離を取る事にした。


次の日も次の日も何日も同じ事の繰り返し。

どんどん酷くなっている。

「課長…。ちょっとよろしいでしょうか?」

私は別室に連れて行かれた。

「どうした?」

「あの…。部署異動をしたいんです…。」

「え?来てまだそんな経ってないだろ?しかも先方からも褒めてもらっているぞ。あ…あのジェネラルコーポの件なら合田は来月から熊本支店に移動になる。」

「え?」

「影山から聞いた。先方にも証拠を提出したら契約したいと言ってきた。しかもかなりこちらの有利な条件で…。影山が誉めてたぞ。相談されたって勘が良いって。今度はアイツとパートナーを組んでもらう。」

そんなの困る!

「それは影山さんのおかげです。パートナーは困ります。」

「ん?影山じゃあ役不足か?」

「ち、違います…っ。」

どうしよう…。

どう言おうか迷っていると、ドアがノックされた。

「失礼します。」

影山さんが入ってきた。

「あぁ。間に合いましたね。課長、実は、彼女、嫌がらせを受けているんです。」

「嫌がらせ?」

「はい。実は、彼女は少し前に痴漢に何度も遭っていて、それに気付いた僕が、彼氏役を買って出たんです。ペアリングをしているのもその為です。それを、俺と付き合っていると勘違いした庶務の相沢さんが嫌がらせを始めました。」

「何故、相沢さんが?」

「はい。実は…。僕は、相沢さんにストーカーされていたんです。何度も何度も告白されていて、家に押しかけられたり、セクハラを受けたりしています。もちろん証拠もあります。そして今回もまた…。今度は山内さんに矛先が向きました。」

影山さんはスマホの中の動画を課長に見せた。

「これは酷い…。わかった。早々に動く。この件は私が預かる。影山は先ほどの動画のデータを送ってくれるか?あと山内は影山となるべく行動を共にする様に。先ほど言ったパートナーの件も早々に組んでくれ。」

「はい。」

課長はそう言うと、部屋を出て行って、私たち2人が残った。

「庶務の相沢さんなんですか?」

「うん…。あの人さ…俺にめちゃくちゃ執着してて、犯罪犯してんだよね…。同じ会社だから穏便にって思ったけど…今回は絶対、許さない。でも、また何かしてくるかもしれないから、あの家は引っ越した方が良いと思うんだ。」

「引っ越し?私もですか?」

「うん…。家はそのままにして琴音だけ俺と一緒に引っ越そう。」

「私、そんな…お給料高くないので…。」

「俺に全部任せて?もう嫌な思いも怖い思いもさせない。週末、一緒に新しい家探しに行こう。」


次の日、辞令が出た。

合田さんは熊本へ、相沢さんは懲戒解雇という辞令が下りた。



それから、私への嫌がらせは終わった。

影山さんと私の噂よりも今回の辞令の話で溢れかえっていた。

「あの子、めちゃくちゃに言ってたのに、自分だけ抜け駆けして、しかも影山さんの事、ストーカーしてたらしいよ?家にも入ってベッドに自分の体液とか便とかもばら撒いてたって。しかも、既成事実作ろうとして影山さん襲ったらしいよ!」

「うわっ。キモッ。それで、山内さんの事もやってたんでしょ?最低ー。」

二人は早々と会社からいなくなった。
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