煉瓦坂の少し奇妙なX'mas
 そしてその夜……。
「さて、みなさん。智ちゃんが帰りましたよ~」
 様子を伺うような沈黙の後、ざわりと小さな音が響き始めた。
「もう、動いていいかな」
「いいんじゃない?」
「ああ、窮屈だった!」
 そんな声が暗い店内のそこかしこから響き渡り、がさごそと、耳を澄ませなければ聞こえないほどの本当に小さい音がした。そうして店の玄関からトントンとノックの音がして一瞬全てが静まりかえり、扉を何かがするりと透過する。
「智ちゃんを送ってきました~」
 そうしてまた店内に騒がしさが戻る。
「ご苦労様~」
「ね、ね、お外は雪がいい感じに降ってました。今年も作れそうです、雪だるま」
「やった、雪だるま」
「お塩がくるよ!」
「待って待って、外に人がいないか見なきゃ」
 たくさんの呟きがきゃぁきゃぁと扉をすり抜け外に出ていく同時に靴音が扉の前で止まる。
「いた、たまちゃんだ。こんばんは~」
「今晩は。智樹は?」
「よっぱらいに行きました~」
「ノアプテの赤い子に引き継ぎました~」
「あとは知りません~」
 溜息と、たくさんのクスクスとした囁きが扉の向こうから聞こえる。
「相変わらず愛されてんな。最近変わりはないか?」
「新しい子きた~?」
「いっぱい~」
「……いっぱい? 新しいのが?」
 舌打ちと、また溜息の音がする。
「まじか。何やってんだかあいつは。どんなやつら……て聞いてもわかんねぇんだろうなぁ」
「わかんなぁい」
「入る~?」
「見る~?」
 パタパタと小さな足音が扉を行ったり来たりする音がするけれど、足音は外に留まったまま。
「そうしたいのは山々だがな、招かれないと入れない結界張ってあるんだわ」
「変なの~。入れるよ~?」
「お前らは本拠が店の中だからだろ。なんであいつは次々と持ち込むかなぁ? 全く」
「お塩ちょうだい~」
「雪をカチコチにするの~」
「仕方ない。じゃあ交換だ。俺は塩をやる。代わりにこの店か智樹に危険になったら俺に知らせに来い」
「危険って~?」
 危険、危険、と小さな呟きが聞こえた。
「店か智樹の魂が減りそうな時だ」
「わかった~」
「よし。契約成立だ。雪だるまはたくさん作っておけよ。俺も追加で張っておくから」
「はーい」
「わーい」
「全ての白結晶の輝きは黒を反射し、故地を守り給う」
 そのあと扉の外でがガリガリと何かが擦れる音がして、ピカリと小さな光が瞬いた。そのしばらく後、扉から離れる足音が消えてなくなったあとは、楽しそうな小さなさざめき以外何も聞こえなくなった。
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