傲慢すぎる警視に守られて愛される
男はスマホを女子高生のスカートまで持って行った。
まだ再生ボタンは押されていない。
愛は男と女子高生の間に無理矢理入りこんだ。
女子高生には背を向けている状態である。
それでもいきなり入り込んできた女を女子高生は少々、不審に思ったのか、ちらっと見た。
でもまたすぐにスマホに目線を落とす。
愛はその間、男に向かってにっこりと微笑んだ。
男は驚いた表情で愛を見る。
男の片方の肩が震えていた。
肩から腕にたどっていくと、愛が男のスマホを持つ手首を掴んでいる。
男が引き抜こうとしているのを力づくで抑えているのだ。
その時、近くにいたスーツ姿の男が舌打ちした。
愛がスーツの男に視線を取られたタイミングで電車が駅に着き、盗撮をしようとしていた男が一瞬の隙を狙って逃げる。

「待ちなさい!」

愛はホームに出た男をすぐに取り押さえる。

「離せ!」
「離さないわよ!」

愛は男を地面に抑えつけた。

「お前、なんなんだよ!」

愛はポケットから警察手帳を取り出し、男の目の前にかざす。

「くっそ!」

いつの間にか、周りには人だかりが出来ている。
駅員さんもやって来て、取り押さえるのを手伝ってくれた。

「俺は何もしていない!」
「はいはい」

男は喚き散らした。
愛が聴衆の方に視線を向けると女子高生と目が合った。
しかし女子高生は自分が被害に遭いそうだった、とはつゆ知らず、外していたワイヤレスイヤフォンを再び装着して立ち去っていった。

(そう、それでいいのよ)

「おい」

愛の前に先ほど、舌打ちをしてきた男が現れた。

「なんでしょう?」

彼は警察手帳を見せる。
迫田智之(さこたともゆき)と名乗るその男は、どうやら愛が捕まえたこの男をマークしていた警察官のようだ。
仲間らしき人たちに愛は取り囲まれる。

「こいつは俺たちが引き取る」
「そうですか、お願いします」

愛と駅員で取り押さえていた男を私服の警察官たちに引き渡す。
愛は迫田と向かい合った。

「邪魔してくれたな」
「邪魔?」
「現行犯で逮捕できなかった」
「マークしていたってことは常習犯でしょ? あのスマホを見れば、余罪は大量に出てくるでしょう」
「お前!」

迫田は愛の態度にイライラしている様子である。

「とにかくお前も一緒に来い」
「ええ、もちろん。でも1本、電話を入れさせてください。実は私、今日が新しい部署の勤務初日なんです」

その時、発車ベルの音がなった。
しばらく停車していた電車がようやく出発する。
扉が閉まり、動き出す電車の中から1人の男が愛をじっと見つめている。

彼の名前は逢坂衛(おうさかまもる)。
愛はまだ知らない。
この男が、自分の人生に深く関わることになるのを。
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