傲慢すぎる警視に衛られて愛される
愛は動けなかった。


(なんで、なんでこんな)

「先、先生」

「うん」

「あの」

「もうちょっと」


低い声が頭のすぐ上から聞こえた。

早坂の鼓動は、思ったよりずっと速かった。


(これって早坂先生の鼓動? それとも私?)


自分の心臓の方が早いと気が付いた瞬間、愛は早坂を押した。

しかし全くびくともしない。


「もうちょっとだけ……お願い」


そう言われ、愛の力がすっと抜けた。


(この人も私と同じで何かに寄りかかりたかったのだろうか)


しばらく、どちらも何も言わなかった。

夜風が2人の間を通り抜けていく。


「……先生」

「うん」

「これは、カウンセラーとしての行動ですか」


早坂が息を短く吐くように笑った。

胸の中で笑い声が振動として伝わってきて、愛は妙な気恥ずかしさを覚えた。


「違うよ」

「じゃあ」

「ひとりの男として」


早坂がゆっくりと愛を離した。

夜道の街灯の下で、2人は向かい合った。

早坂の顔に、いつもの笑みはなかった。

ただまっすぐに愛を見ていた。


「それってどういう……」

「さあね、じゃ、また明日」


それだけ言うと早坂は足早に立ち去った。


「ちょっと! 先生!」


早坂は振り返り手を振ると、そのまま角を曲がって愛からは見えなくなった。

頭の中がぐるぐるした。

我に返った時はここが愛のマンションの近くだったことを知った。
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